小説を書くことは苦行である、と作者は語る。
  いわく、自分が書いた小説ができていくのを見るのは楽しいが、自分が小説を書くのはこの上もなく苦しいことなのだ、そうである。
  我が輩にもこのことはよく分かる。いや、我が輩が小説を書いた経験があるわけではない。我が輩は書き手ではない。言ってみれば「書かれ身」である。何が言いたいかというと、作者はこの数日、書かなければならない私を「書きたくない」と言ってほったらかしにしていたのだ。
「パソコンに向かい、ファイルを開く……するとその感情に襲われる。つまり『書きたくない』!」
  見下げ果てた作者である。
  何がそんなに苦しいのか、と、我が輩は作者に聞く。
「こういうことは、人によって全く違うだろうが……俺の場合、小説を一気に書き上げるとか、毎日一定枚数ずつ書き続けるとか、そういうことはできない。たとえるなら、俺は毎日少しずつ湧き出てくる湧き水を、汲み上げながら書いているんだ。その日、水がどれぐらい湧いてくるかは、誰にも分からない。けど、とにかく俺は、沸いてきた水を残らず汲み上げて、小説という形にする。すると、湧き水は涸れてしまう。そうなるとその日の執筆はおしまい。次の日、また俺は湧き水の前で、バケツを持って待ち構えるが、水は沸いてくることもあるし、一日中沸いてこないこともある。それでも俺は待ち続けるが、待つのに飽きて、どこかへ遊びに行ってしまうこともある……俺にとって、小説を書くとは、そういうことなんだ」
  つくづく可哀想なやつである。いや、読者諸賢に同情して欲しいというわけではない。念のため。

  我が輩の前で今、作者は頭を抱えている。いわく「さあ、もう書くことが尽きてしまったぞ。でも、たったこれだけでは読者に見せられるものではない。落ちもついてない。どうしようか」。
  もし、読者諸氏の中に、作者の実力を買っている人がいたら、我が輩から一つ忠告させてもらおう。作者はいつも右のような調子なのである。特に考える時間があまりない月例短編(我が輩のことだ)に関しては、ほとんど即興小説のような時もある。さすがに作者も反省し、最近はそこまで酷いことは稀だが……時として我が輩のような作品が生まれることもある。
  ところで、作者は最近、パソコンのモニターを一台増設した。モニター二台を同時に使う、世に言う「デュアルモニター」というやつである。別に金があるわけではない。サブモニタは五年前から使っている韓国製だ。しかもフルHDではない。要するにモニタを新しく買いたかったけど前のモニタがなかなか壊れなかったので勢い余ってデュアルにしてしまったのである。
  デュアルモニタはなかなか便利だと作者は言う。ほら、原稿を書きながらツイッターが見れる、と。我が輩などは、そんなこと、百害あって一利なしであろうなどと思うが、作者はそれほど気にしていない。
  そのツイッターを見ていたら先ほど「作品が完成した直後の自己評価と、実際の評価の落差は非常に大きい」という趣旨のツイートが出ていた。
  我が輩などは、そういうものか、と思うだけであるが、自称作家の作者にはただごとではないらしい。もちろん、いくら作者が可哀想だからといって、自分の作品を客観的に評価することの難しさを知らないほどのもぐりではない。何年書いてると思ってるんだ、と作者は言う。「何年なんだ?」と我が輩が尋ねると「それを言うと歳がばれるから言いたくない」などと言う。馬鹿か。
  話を戻すと、作者は、自分の作品を客観的に評価するのは確かに難しい、と語る。それでいつも苦しんでいる、とも。
  作者はしがないネット作家だ。アクセス数を明らかにするのはやはり可哀想なので控えようと思うが、とにかく、感想をくれる読者などいない。普通の作家だったら、読者の反応を一通り眺めて、その作品の客観的評価を知ることができようが、我が輩の作者にはそれができない。勢い、自己評価に頼らざるを得ない。
  読者諸賢、間違ってもらっては困る。感想を送れと催促しているのではない。そういうのは送りたいと思った時に送ればいいのだ。大体、作者自身、誰かの作品(ことに、ネット作家の作品)に感想を書いたことなどほぼ絶無だ。だから、読んでも感想を書かない人の気持ちを、作者はよく分かっている。
  リアルの知り合いに見せてはどうか、と我が輩は作者に提案した。すると作者はかぶりを振る。そういうことはあまりしたくない。特に出来が良い作品ができたときなら、少し話は別だが、普通はそういうことはしたくない、と。
  理由を聞くと、作者はこう返す。リアルの知り合いには、ホームページのアドレスを教えてある。気になるなら見に来るはずだ、と。つまり、見に来ないということは気にならないのであって、それをあえて見てくれというのは何か引っかかる、というのであった。
  不器用キャラ気取ってんじゃねえぞ、と我が輩は作者に吐き捨てた。すると作者は「お前も少しは面白い小説になったかもな」と言って笑った。