話を聞き終えてから、私は、気分が悪くなった、と言って、食事をとることなくレストランを立ち去った。
 その場ですぐ、彼に許しを与えることは、私にはできなかった。
 いや、すぐに、だけではなく、その後、何日か考えてようやく出した結論は、私には彼を許すことは決してできない、というものだった。
 私は子供が好きだ。彼との間に子供を儲けて、幸せな家庭を築くことを夢見ていた。
 しかし、その彼が、かつて貧しい子供たちにしたという仕打ちは、そんな私にとって、およそ受け入れがたいものだった。
 確かに、彼は反省していると言ってはいる。しかし、私にはそれは疑わしく思えた。彼が語る告白は、最初の内は確かに後悔と罪悪感で満ちているように感じられたが、後半に差し掛かるにつれて、そこには自戒に代わって自慢が垣間見えるような気がした。もしかしたら、彼にとっても無自覚だったのかもしれないが、やっぱり彼には、あのちょっと普通では思いつかないような復讐法を、自分が思いついたことに関して、誇らしげに思う気持ちが、今もなお残っているのではないか、と、私には感じられてならなかった。
 だから、私は、彼との婚約を破棄することを決めた。
 婚約の破棄は、あまりにも一方的な理由で行った場合は、慰謝料が発生する可能性がある。私は弁護士に相談したが、その弁護士は、今回の場合は正当な理由があると認められる可能性もあるから、要求されてもいないのに慰謝料を払う必要はないのではないか、と私に言った。
 しかし私は、私からの一方的な婚約破棄だと仮定して、この場合に適当な慰謝料を計算して欲しい、と弁護士に願い出た。そして、その金額を彼の口座に振り込んで、婚約破棄を告げる手紙を送った。
 以来、彼とは連絡を取っていない。彼からの連絡もない。
 その後しばらくして、ある共通の知人から、彼が職場からも自宅からも姿を消して、蒸発してしまった、と聞かされた時は、さすがに私も驚いた。
 けれど、私の心は今、とても落ち着いている。一度は婚約までいった相手が、生きているのか死んでいるのかも分からないというのに、私は、今回のことは事故にでも遭ったと思って、また新しい相手を見つけよう、ぐらいの気持ちでいる。
 たぶん、それだけ私は、彼のしたことに怒っているのだ、ということになるのだと思う。
 彼はいま、どこで何をしているのだろうか。
 贖罪のために、貧しい子供たちのために働いているのかもしれないが、それは、ほとんど夢みたいにあり得ない話だろう。
 それよりずっとあり得そうなのは、何かもっと、すごく悪いことになっている、という可能性だ……その場合、私の振り込んだ慰謝料は、私が期待したとおりの効果を上げた、ということになるのかもしれない。
 最も強い形で、彼がかつて犯した罪を非難する、という効果を。

 

                                                                              了

 

 


 

ご読了、ありがとうございました!

 

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