あれは、八年前のことだった。当時、僕は大学を休学して、世界のあちこちを旅していたんだ。
 それは、ある貧しい国に立ち寄った時に起きた。
 僕はその国の首都を、あちこち見て回っていた。異国情緒溢れる市場で、色々と珍しい物を見れて、僕はとても満足していた。
 人混みを抜けると、そこは広場になっていた。雑踏の中を抜けてきて、疲れていた僕は、花壇を囲っている煉瓦に座って、少し休憩した。
 そうして、しばらくして、そろそろまた歩き出そうと思って、腰を上げた時だ。
 突然、僕の後ろの方から、現地の子供たちの集団が走ってきて、きゃあきゃあと甲高い声を上げながら、僕の周りを取り囲んだんだ。子供たちは、十歳か、もう少し下ぐらいで、大半は男の子だったけど、二人ほど女の子が混じってたかな。
 黄色い悲鳴を上げる子供たちに、もみくちゃにされて、僕は最初、呆然としてしまった。でも、すぐに思い出したんだ。ああ、これと全く同じことを、旅に出る前に読んだじゃないか。よくある盗みの手口だって、書いてあったぞ、とね。
 僕は、咄嗟に尻のポケットを探った。思った通り、そこにはあるはずの財布がなかった。
『盗みだ!』
 僕が英語で叫ぶと、子供たちはぎくりとした顔になった……ああ、あの国は出稼ぎが主な産業だから、英語の教育だけはしっかりしてるんだよ……すると、子供たちは、一斉に同じ方向に逃げ始めた。僕は走って追いかけた。
 子供たちは、大通りに出た途端、バラバラになって逃げ始めた。これはまずい、と僕は思ったんだが、その時、ちょうど、客待ちをしているバイクタクシーの列が目にとまったんだ。
 僕は運転手のおじさんたちの前に立って、こう言った。
『子供たちに財布を盗まれた! 一人捕まえるごとに、五ドル払う!』
 あの国は貧しいからね。五ドルといえば、日本では小銭程度だけど、あの国では、大金ってほどじゃないにしても、それでも、一家全員で豪華な食事ができるぐらいの金ではあるんだ。
 僕が言うのを聞いた運転手たちは、目の色を変えてバイクに飛び乗って、あちこちに散らばった子供たちを追いかけていった。
 それから、一時間ぐらい後かな? 僕は捕まえた八人の子供たちと一緒に、警察署に来ていた。
 実を言うと、最初、子供たちは十人いたんだ。つまり、バイクタクシーのおじさんが十人いたってことだよ。でも、子供たちはそのうちの二人のことを「こいつは仲間じゃない」って言ったんで、放してやったんだ。どういうわけか、子供たちはあの申告だけは、正直に言っていたみたいだね。僕はその時「へえ、集団で盗みをするグループなのに、妙な団結心があるんだなあ」って、ちょっと感心したもんだよ。
 ……まあ、その感心が、後々にあんなことに結びついたんだろうけどね。
 いや、話を続けよう。
 警察署の警官とやり取りをしているうちに、僕は気づいた。どうもこの子供たちは、大した処罰を受けないみたいだぞ、ってね。警官たちの「やれやれ、またか」みたいな、大した事件だと思っていないことが、ありありと分かる態度を見て、僕はそう思ったんだ。実際、あの国の警察の評判は良くないから、僕があのまま帰っていたら、子供たちは大した処分も受けないまま、釈放されていたかもしれないと思うよ。
 そういう予感が頭をよぎった時、僕は憤った。いくら子供とはいえ、盗みをしたのに大した処分を受けないのは、間違っていると思ったんだ。実際、僕は既に五十ドルを失っていたしね……ああ、お金はちゃんと十人分払ったんだよ、文句を言われるのが面倒だったからね……で、どうにかして、この子供たちに復讐してやれないか、と思ったわけなんだ。
 そして、僕はその計画を思いついた。
 その時の僕は……最低なことなんだけど……自分は何て頭が良いんだろう、って、得意になる気持ちさえあったんだ。本当に、その時は、それが良いアイデアだと思ったんだよ。今考えると、どうかしていたとしか言いようがないんだけどね。
 ……まあ、どう言いつくろったって、変わりはしない。
 とにかく、僕はその計画を実行したんだ。