donating_revenge

私は婚約者の彼から「大事な話がある」と呼び出された。話を聞くと、彼はかつて自分が犯した罪について、結婚する前に私に許しを請いたいのだという。彼が語り出した、過去の罪の内容とは「復讐としてお金をあげる」という驚くべきものだった……


 

掲載時期

ジャンル

分類

分量

2015年11月

ノンジャンル

短編

4ページ

 

 

 婚約者の彼が「大事な話がある」というので、私は友達と会う予定をキャンセルして、その日の夜、彼が指定した待ち合わせ場所へと向かった。
 彼が私を連れて行ったのは、高層ビルの上階にある、夜景の綺麗な高級レストランの個室だった。部屋に入った瞬間、窓の外に立ち並んだビル群が放つ、美しい輝きが目に飛び込んできて、私は思わずうっとりとしてしまう。
 しかし彼の方は、待ち合わせ場所で会った時からずっと、浮かない顔のままで、テーブルに向かい合って腰掛けた時も、すごく顔色が悪かった。それを見た私は、一体これから、どんな話が彼の口から語られるのだろうと思い、不安で胸が一杯になった。
 彼は私の希望を聞きつつ、赤ワインをボトルで頼むと、料理は後から注文する、とウェイターに告げた。珍しくもないことなのだろう。ウェイターは慇懃にその場を引き取った。
 待つ間、私たちは他愛のない会話をして過ごしたが、彼の口数はいつもと比べてめっきり少なくなっていて、私の胸にはますます心配が募った。
 やがて赤ワインが運ばれてくると、彼はまず私の分を、次いで自分の分をグラスに注ぎ、例の思い詰めた暗い表情のまま、小さく乾杯した。
 彼は、一度口をつけただけでグラスをテーブルに置いたが、その一度きりのグラスの傾きは、いつもより深かった。
 ここでようやく、彼は話を切り出す。
「大事な話……なんだけど」
「うん」
 私は、愛する彼のことだから、どんなことであっても受け入れるつもりだ、と分かってもらおうと、努めて穏やかな顔で相づちを打った。
 だが、彼の暗い顔色に、変化はなく、そのまま彼は言った。
「僕は、君に懺悔したいんだ」
 それを聞いて、私は小首をかしげた。
「懺悔?」
「つまり……結婚する前に、過去の僕が犯した罪について、君に告白して、許しを請いたいんだ……本当は、墓場まで持って行こうと思ったんだけれど……でも、いつか、誰かに話したいとも思っていた。もし誰かに話すとしたら、君しかいないだろう、そう思ったんだ……カウンセラーのところへ行こうかとも思ったけど、あの人たちは、お金を払ってる僕のことを、悪く言うはずがないからね。だから、カウンセラーに打ち明けても、僕は許されるに決まっている。でも、それじゃ懺悔の意味がない。その点、君なら、と思ったんだよ」
 私は、この彼の言い分に目を見張った。それじゃあ、彼がこれから話すことは、私でも許すことができないかもしれない、ということなのだろうか?
「私は……」
「いや」
 言いかけた私を、彼は制止する。
「とにかく、今は、話を最後まで聞いて欲しいんだ」
 彼が真剣な、それでいて悲しみを帯びた顔でそう言うので、私は神妙にうなずくしかなかった。
 そして、彼はワインをもう一口飲むと、話を始めた。