戦争が終わって何年か経った頃、故郷の街で、伝令兵の彼と再会する機会があった。僕らが同郷であるということは、練兵所で知っていたから、ばったり会うこと自体はそれほど不思議ではなかった。僕たちは、昔は色々あったにせよ、久しぶりの再会をそれなりに喜び、夜に近くの酒場で落ち合って、一杯やることにした。
 僕たちは、他の多くの戦友と違って、五体満足で生還することができた。なぜそんなことが出来たかと言えば、運が良かったからとしか言いようがない。そういう時代だった。
 彼とはこんな話になった。戦争が終わってから数年は、みんな戦争のことなんて思い出したくもない、という雰囲気だった。でも最近は、戦争に従軍したと言うと、みんな英雄だ何だと言って、一杯おごってくれるようになったね、と。
 彼の言うとおりではあったが、僕からすれば、英雄扱いは何だかむずがゆいというか、むしろ気の滅入ることの方が多かった。戦争の英雄と言われるたび、僕は死んでいった男たちの顔を思い浮かべる。真に英雄と言えるのは彼らだけであろうと思う一方で、彼らは英雄扱いを望まないかもしれないとも思った。勲章なんかいらないから、命を返してくれ、と本当に言いそうなやつだって、一人か二人は思い当たった。そういう時代だった。
 ところが、話を聞いてみると、伝令兵の彼は僕と違って、この英雄扱いを心の底から楽しんでいるらしかった。
 僕は少なからず困惑した。まあ、戦時中からお調子者だった男が相手なら、こういう感情のすれ違いはあり得ることだ。しかし、実直で生真面目で、ややもすれば陰気とも受け取られかねない性格をしていたこの男が、英雄扱いを楽しんでいるなんで、僕には少々不思議というか、それを通り越して不気味にすら思えた。
 僕がそのあたりを遠回しに聞くと、彼は藪から棒に、大声で笑い始めた。僕は思わず目を見張った。大勢の人がいる酒場の真ん中で、大声を出して笑うなんて、戦時中の彼からは、考えられないような反応だった。
 彼は、笑いをこらえながら、こう言った。
「何をそんなに驚いているんだ、君は。銃弾から逃げ回っていただけで英雄扱いなんて、愉快で愉快でたまらないじゃないか」
「逃げ回っていただけなんて、そんな……君は、伝令兵としての任務を果たしていたじゃないか」
「そうだったね。それで戦友たちからは、思い切り罵られたものだ。いや、君は別だがね、君が決して僕を馬鹿にしなかったことを、僕はちゃんと覚えているよ。だからこうして、一緒に酒を飲んでいられるんだ……それはさておき、僕を臆病者と馬鹿にして、一生懸命に前線で戦っていた皆も、今や多くが土の下だ。彼らはもう、酒を飲みたくても、それができない……一方で、逃げ回っていた僕は、善良な市民から英雄扱いされて、たびたび良い思いができる。まったく、これが愉快でなくて何だ」
 そう言った彼は、また笑いながら、ジョッキを傾けて、ビールを飲み干す。僕は彼の言葉を受けて押し黙り、少なからず戦慄していた。戦争が、男たちを血と肉に変えるだけでなく、ただちょっと気弱だっただけの善良な男の性根を、こうもねじ曲げてしまうなんて。
 あるいは、戦争が作り出すのは、英雄なんかじゃないのかもしれない、と僕は思った。英雄は戦争で死ぬ。言い換えれば、戦争は英雄を生むのではなく殺す。戦争を生き残った者の多くもまた、心に傷を負い、英雄であり続けることはできなくなるのかもしれない。いや、戦争の最中でさえ、そうなのかもしれない。
 であれば、男たちが戦争に行く意味とは、一体何であろうか。あの戦争で、祖国が得た物はなく、失った物は大きいことを考えれば、この問いは問い自体が劇薬のようなものかもしれなかった。
 そういう時代だった。

 

 


 

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