昼食を取った後、私は二階の自室に戻らず、一階の居間で過ごした。ヘルマンが鳴き始めたら、すぐに駆けつけられるようにするためだ。しかし、ヘルマンはのんびり寝ていて、午後は至って平和なものだった。
 夕食後、私はまたヘルマンにミルクをやった。排泄の方もまた試してみたが、やはり駄目だった。
 ヘルマンは、少し寒そうだった。私が近づくと例によってみゃあみゃあと鳴くのだが、私が手を添えて温めてやると、鳴き止むのだ。今までは兄弟たちとくっつき合って寝ていたのだろうから、一匹では寒いのは当たり前だった。私は母と相談して、段ボール箱に敷き詰めたタオルの下に使い捨てカイロを置き、さらにもう一枚タオルを上から被せてやることにした。ヘルマンは鳴くのを止めておとなしくなり、しばらくすると、丸くなってすやすやと眠り始めた。

 

 寝る前に……私が寝る前にという意味だ……もう一度、私はヘルマンの様子を見にいった。ミルクもあげようとしたが、ヘルマンはあまり飲まず、むしろ眠りたいようだったので、私は少し心配になりながらも、ヘルマンの好きにさせることにした。
 赤ちゃん猫には昼も夜もないという話だったので、念のため、私は自室のドアを開けっ放しにして、ヘルマンが大声で鳴けば聞こえるようにした。さらに、午前二時に目覚ましをセットして、ヘルマンの様子を見るために起きることを決めた。その時も私は、嫌だとか面倒くさいとかはこれっぽっちも感じなかった。ただ、やらずにはいられない、やらないという選択肢はあり得ないという思いが、私を突き動かしていた。
 実際には、目覚ましが鳴る直前に自然と目が覚めて、私は階下へ降りていった。
 電気を点けると、ヘルマンは上にかかっていたはずのタオルから抜け出して、じっと私のことを見上げていた。彼は、やってきた私にただ反応しただけなのかもしれない。でも、もしかしたら、私を待っていてくれたのかもしれない。
 私は台所に行って、ミルクを作った。ヘルマンがいる玄関の土間に戻って、また尻を拭いてやったが、やはり糞尿は出てこなかった。今日は無理だが、明日こそは何とかしないとな、と私は思った。
 次にミルクをやった。だが、ヘルマンはあまり飲まなかった。そんなはずはないと思ったので、私はさらに一段と、ほ乳瓶の吸い口の穴を広げて、飲みやすくしてやった。それでまた与えてやると、ヘルマンは今度はごくごくと勢いよく飲み始めた。それまでで一番よく飲んだ。私はほっとした。大丈夫、綱渡りのように危ういけれど、一つ一つ、注意深くやっていけば、きっとこの子は無事に育つ……そう思えた。
 それから私は、今日という日と、これから待ち受けている日々に思いを馳せた。
 大した作業量ではなかったが、とにかく気疲れの多い一日だった。こんな日々がこれからしばらく続くと思うと、さすがの私の情熱も、どこまで続くか不安になってきた。
 でも、きっと大丈夫。そう思った。
 この子が無事に育ったら、きっと楽しい日々が待っているんだろうな、と思った。昼間の母の言葉を思い出す。母は何度も繰り返し私を脅した。電気のコードを噛まれるだの、匂いが酷いだの、トイレの始末が大変だのと。それは確かにそうかもしれない。その点については、母とはじっくり話し合う必要があるだろうと思った。
 でも、誰もが寝静まった深夜、一人で子猫の頭をなでていると、私は確信できた。ヘルマンが私に与えるものは、私から奪っていくものより、ずっと多い、と。
 ヘルマンは、何度かに分けてミルクを飲んで、しばらくすると大人しくなった。私はヘルマンの背中にタオルをかけてやって、もう一眠りするべく立ち上がった。布団に潜り込み、眠れるうちに眠って体力を残しておかなければ、と思って目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。
 その時の私は、まだ知らない。朝起きると、ヘルマンはもういなくなっている、などと。