僕が最初にやったことは、彼女のSNSのページをたどることだった。思った通り、そこには彼女の高校時代の友達がたくさんいた……自殺の経緯を知っているはずの人たちだ。
 僕は彼女の友達に、次のようなメッセージをしたためて、一斉に送信した。

 

『突然のメッセージですいません。僕はXさん(彼女)の大学での友達です。最近、彼女がとても落ち込んでいるようなのですが、どうやら高校時代の友達に何かあったようです。彼女を励ましてあげたいので、可能な範囲でけっこうですから、知っていることを教えていただけないでしょうか』

 

 警戒されると思ったので、僕が「自殺」の事実を知っていることはあえて伏せた。
 実際のところ、僕のメッセージはほとんどが無視された。まあ、当然だろう。
 とはいえ、十分な数の返信が来た。僕が彼女の大学での友達であることは、SNS上からも確認できたから、それが一定の信憑性を担保したのだと思う。それに、一定数の人間がいれば、そのうちの何人かは、苦しい話を吐き出すことで楽になりたいと思うタイプなのだ。
 もちろん、僕がやったことは、他人を自分のために利用する行為であることは明らかで、後ろめたい気持ちもあった。
 それでも、この時の僕は、それで彼女を少しでも楽にできるなら、などと考えていたのだ。

 

 僕は彼女の友達と何度かメッセージのやりとりをして、自殺した人たちの情報を集めた。
 僕が掴んだのは、おおよそ次のような情報だった。
 仮に、自殺した彼女の友達三人を、A、B、Cとしよう。三人とも女性だった。
 Aは、家族関係に悩んでいた。幼い頃に母親と死別し、父親の再婚相手とは折り合いが悪かった。何度も家出を繰り返して、その度に精神を消耗していた。
 Bは、学業で躓いていた。希望の大学に進学できず浪人したが、彼女の実家には十分な経済力がなかった。Bは働きながら予備校に通ったが、成績は下がる一方だったという。
 Cを苦しめていたのは、年上の恋人だった。その男はCをさんざん弄んで、貢がせて、最後には酷いやり方で袖にした。

 

「君のせいじゃないよ」
 僕は、勝手に情報を集めたことを謝りつつ、彼女に言った。
「亡くなった君の友達は、みんな元から問題を抱えていた。君は何も悪くない。それどころか、君は献身的にみんなを励ましていたそうじゃないか。そう思ってしまう気持ちは分かるけど……でも、自分を責めすぎたら、いけないよ」
 あの時と同じ、カフェテリアのオープンテラス。僕の向かいに腰掛けて、彼女はうつむき、黙っている。
 そんな彼女に、僕は言った。
「君は死神じゃない」
 彼女は答えない。
 僕は、重ねて言った。
「強いて言うなら……これからは、付き合う友達を、選んだ方がいいかもしれない。そうすれば、君の周りで人が死ぬことは、もうなくなる」
「……何それ」
 その時、彼女が口にした言葉は……凶器のように冷たかった。
 彼女が、本物の死神に見えた。