「私って、死神なのかな」
悲しそうに言う彼女に対し、僕は――
掲載時期 |
ジャンル |
分類 |
分量 |
2015年2月 |
ノンジャンル |
短編 |
3ページ |
私って、死神なのかな、と、彼女が悲しそうに言うものだから、僕は「違うよ」と言いたかった。
でも、言えなかった。
だって、彼女の周りでは、この一年、立て続けに、三人もの友達が死んでいたのだから。
三人とも、彼女の高校の同級生だった。自殺だった。
大学のカフェテリアのオープンテラスで、僕は彼女から、その話を打ち明けられた。
最近、元気がなかったから「悩みでもあるの?」と聞いたのだ。
打ち明けられて、嬉しくなかったと言えば、嘘になる。それは、ごく親しい人にしか話せないような、深刻な話だったから。
でも僕は、彼女を上手く慰めることができたかどうか、自信がなかった。
彼女は、自分を責めていた。自ら命を絶った友達、一人一人について、自分にも責任があるのではないか、何かできることがあったのではないか、と悩んでいた。そして、こんなにも多くの人が、自分の周りで次々と死んでいくからには、やはり自分に何か問題があるのではないかと、苦しんでいた。
そんな罪の意識が
「私って、死神なのかな」
という言葉につながったのだ。
僕は、違う、と言いたかった。そんなはずはない、と。
でも、言えなかった。
言ったとしても、彼女の心に届くとは、どうしても思えなかった。その場の思いつきで言った、空虚な言葉だと、思われたくなかった。
だから、行動を起こした。
僕は、彼女が好きだった。
彼女は、僕の周りにいる多くの女子大生と違って、浮ついた感じのしない、しっかりした芯のある人だった。それでいて、暗いわけではなくて、明るく人と接することができていた。
友達の死に、深く責任を感じて思い悩む彼女を、僕は救ってあげたいと思うと同時に、とても愛おしく感じた。誰だって、友達が自殺すれば責任を感じるものだとは思ったけれど、生真面目な彼女が、その美質のためにより一層苦しんでいるのを見て、僕は特別な何かを感じていた。
「私って、死神なのかな」
と言う彼女に、僕は「違うよ」と言ってやりたかった。
でも、ただ口で言うだけでは、中身の伴わない、嘘みたいな言葉になってしまう。
だから、僕が始めたことは、自殺した彼女の友達について調べることだった。
自殺の原因が分かれば、彼女に「君のせいじゃないよ」と言ってあげられると思ったのだ。
今にして思えば、浅薄きわまりない考えだった……けれど、苦しみに苛まれるあまり、食事ものどを通らない彼女を見て、僕はいても立ってもいられなくなっていたのだ。