敵の銃火の下をかいくぐって駆けていく彼女の背中を見送りながら、僕はまた物思いにふけっていた。
 ゲームに限って言うなら、僕と彼女に実力差はないと言っていい。ランキングでも、いつも抜きつ抜かれつだった。なら、僕が前衛でも良かったはずだ。
 しかし、前衛は僕だと言っていたら、彼女は何と返していただろう。強引に自分の意見を押し通そうとしてきただろうか……あるいは、もっと興がって「なら、一対一で勝負をして、勝った方が前衛をやることにしよう」とでも言ってきたろうか。
 もしも……もしもそうなったとして、その勝負で僕が勝っていたら、どうなっていたろう。
 だが、僕は彼女に勝った自分を、上手くイメージすることができなかった。
 反対に、負けた自分を想像することは、簡単だった。負けた時の悔しさ、無力感――そういったものを、僕はリアルに感じることさえできた。
 僕はそこで、考えるのをやめた。だって、いずれにせよ、そうはならなかったのだから。
 僕は、最初から、勝負しないことを選んだのだから。

 

 なぜそうまでして上位を狙うのかという僕の問いを聞いて、彼女は自分の顔を指差した。
「私って、可愛いでしょ」
 突然そう言われて、僕は「うん」とも「いや」とも答えなかった。彼女の方でも、僕の答えを待っている様子はなかった。
「たとえば……テストの点数。私が良い点を取ると、みんな『可愛い上にテストの点まで良いなんて』って羨ましがる。で、私の点数が悪いと『点が悪くても、可愛いんだから、いいじゃない』なんて言う人がいる……いや、これじゃ分かりにくいかな」
 彼女はかぶりを振って、続けた。
「つまりね、私がある時、弟のゲームを試しにやっていた時……突然『この下手糞!』ってボイスチャットで罵られたの。私、それを聞いた瞬間、ゾクゾク来ちゃって。そんなこと言われたの、生まれて初めてだったから。それで、私はゲームが好きになったの。ゲームは、平等だっていう気がして……ゲームの中だったら、私も普通に扱ってもらえる気がして。普通っていうことが、私には、特別なことで」
 彼女は少し言葉を切って「罵られたのが気持ちよかったなんて、私って、マゾヒストだと思う?」などと聞いて来た。僕は例によって答えない。答えられない。
「まあ、このままいったら、本当にただのマゾだよね……でも、誰にでも平等なゲームで、一番になったら……それは、テストで一番を取るのとは違う気がするの。何というか、それは……本当に一番になった、っていうことだと思うの」

 

 僕は彼女に勝てる気がしない。だから、勝負を避けた。逃げたのかもしれない。
 僕たちは、大勢の兵士を排除して、敵の司令官が立てこもる建物にたどり着いた。
 ドアを挟むようにして、僕たちは壁に張り付いた。僕は武器を機関銃から拳銃に切り替える。拳銃の方が照準動作を早く行えるので、室内戦、とりわけ突入時には有利なのだ。
 彼女がドアを蹴破る。僕は開いた空間に音響閃光手榴弾を放り込んだ。耳をつんざく爆音と、視界を覆う閃光。
 僕らは室内に飛び込んだ。彼女が正確無比な射撃で、次々と敵兵を撃ち倒していく。僕もそれに続いた。

 

 クラスで一番の美少女と、大好きなゲームで一緒に遊べる……それこそ、ゲームの中のような話だった。
 だが、僕はあまり嬉しくなかった。
 断る気力さえなかった。僕はあの日から、気の進まない戦闘を繰り返していた。
 あの瞬間が訪れるまでは。