special_normal「彼女」と協力して敵兵を次々と撃ち倒していく、ゲームしか取り柄のない「僕」。しかし、僕の気分はどこか晴れなかった……

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2014年11月

ノンジャンル

短編

6ページ

 

 

 僕は階段を駆け上がって屋上に出ると、手すりの上に機関銃の二脚を固定した。
 すぐに敵兵が僕に気付き、散開して、物陰に隠れようとする。
 僕は出足の遅れた一人に狙いをつけ、引き金を引いた。
 硝煙と共に吐き出される乾いた銃声と、小さな銃弾。一発二発ではなく、数珠つながりに。弾頭は狙いをあやまたず降り注ぎ、哀れな敵兵を蜂の巣にした。走っている途中に事切れて、道の真ん中に倒れ込む亡骸。
 だが、敵もさるもの、怒りに駆られて、仁王立ちになってこちらを撃ち始めるような馬鹿はいない。まずしっかりと身を隠し、それから撃ってくる。
 こうなると面倒だ……普通なら、すごく面倒だ。
 でも、今回は違う。
 僕は頭を下げて安全を確保しつつ、射撃を続けた。もちろん、ろくに狙いもしないで、直径数ミリの銃弾が人間に当たるはずもない。
 しかし、撃たれている側は、それでもけっこう怖いものだ。つい、前方に気を取られてしまうぐらいには。
 僕が目くらうちを続けていると、敵も撃ち返してくる……しかし、その銃声は、一つ、また一つと消えていく。敵兵たちは自分の射撃に夢中で、隣にいる仲間が次々と倒されているのに、まるで気づく様子もない。
 そう、いつもなら面倒だが、今回は彼女がいる。僕が敵の注意を上に引きつけている間、路地を縫うようにして敵兵に近づき、手際よく、ナイフで一人一人仕留めていく彼女が。
 彼女が銃を使い始めた。終わりが近い。
 僕は寸暇も惜しまず、二脚を上げ、次の射撃地点へと移動を開始した。

 

 僕は、ゲーム以外に取り柄のない男である。勉強もスポーツもできないし、顔立ちだって良くはない。
 公正を期して言えば、ゲームが取り柄と言えるかどうかだって怪しい。鍛え上げられた肉体を持っているのは、ゲームの中のキャラクターだし、銃を持った相手を撃たれる前に撃つことができるのは、ゲーム機に繋がったコントローラーのおかげだ。
 ゲームというのは、上手くできている。ゲームは――特に、他人と対戦するゲームではなく、一人で遊ぶゲームは――プレイヤーに「自分はすごい」と思わせてくれるようにできている。
 だが、実際には、僕はそんなにすごい人間ではない。ゲームによって、すごいと思わされているだけだ。もっといえば、全国、全世界という視野で考えれば、ゲームの中の僕ですら、大したやつではない。
 そんなことは、分かっていた。
 それでも、そのアップデートが来た時、僕は前よりも、自分はすごい人間なんじゃないか、と思わされてしまっている自分に気づいた。
 そのアップデートとは、今までは一つの全世界共通のスコアランキングしかなかったものを、国別、さらには、都道府県別のランキングも見られるようにするものだった。
 前々からあった世界ランキングでは、僕は平均よりちょっと上程度の、何ということはないプレイヤーだった。国別でも、似たようなものだった。しかし……僕は、都道府県別のランキングで見ると、かなり上位にいた。
 そりゃあ、たとえば東京で上位だったらかなりすごいけど、と、僕は自分に言い聞かせた。僕が住んでいるような田舎では、上位に来ても自慢にはならないぞ、と。
 それでもやはり、僕は県内有数のプレイヤーなのだった。それは、嘘ではなかった。
 もっとも、学校でそのことを話しても、すごいと言ってくれる友達はあまりいなかった。いても、本気ですごいと思ってくれているかは怪しかった。少なくとも、模擬試験やスポーツの大会で上位に入ったのとは違う。当たり前だ。僕だって別に、変な期待はしていなかった。
 ただ……彼女だけは、違ったみたいだった。