「ねえ、そんなことより」
 と、ユミは話題を変える。
「あなた、進路はどうするつもりなの?」
「進路?」
「だってまさか、暴徒になるわけじゃないでしょ」
 ユミはそう言って笑ったが、僕には笑えなかった。
「まだ考えてないよ」
「ああ、そう」
 ユミはそう言って興味なさそうに勉強に戻った。
 だが、僕には分かってる。ユミは僕に自分と一緒の大学に行って欲しいのだ。正確には、僕がそう言い出すことを彼女は望んでいるのだ。
 まったく、これで「一緒の大学に行こう」としおらしく頼んでくるなら、まだ僕だってちゃんと考えるのに。だが、彼女はそれを言うのが嫌なのだ。僕の自主性を尊重してくれてるとかそういうわけではなく、ただ、彼女のプライドがそれを許さないだけだ。
「なあ、ユミ」
 僕は言う。
「何?」
「毎日のようにさ、犯罪のニュースが流れるじゃん?」
「それが?」
「犯罪者の中に、大卒ってどれぐらいいるのかな?」
 ユミはあからさまに「お前何を言い出すんだ?」という目で僕を見た。
「つまりさ」と僕は続ける。「苦労して勉強して、親から学費をもらうなり、自分で工面するなりして大学に行ってもさ。行き着くところが犯罪者っていう人も、けっこういるんじゃないかと思うんだよ。ほら、人生で最高に近いスタートを切りながら、最後には火炎ビンを投げた、あいつみたいにさ」
「だから、大学に行くことは意味がないって?」
「そうじゃない」
「もちろんそうじゃないでしょうとも。犯罪を起こすのは個人の責任であって、大学は関係ない。大体、その俳優にだって、前々から悪い仲間とつるんでいる不良だっていう噂があったじゃない」
「だから、僕が言いたいことはそうじゃなくて……」
 言いながら、僕は頭の中で自分の意見がまとまっていくのを感じた。この点では、話し相手になってくれたユミに感謝すべきだろう。
「君の言うとおりだ。大学は悪くない。でも、人生で、本当に大事なものは、たぶん、大学に行っただけでは学べないんだよ。最高の映画に出ても、身につかないんだよ」
 ユミは黙って聞いている。
「僕はただ……」僕は言った。「そういうのって、どこで何をすれば、学べるのかな、って思って……」
 しばし、僕らの間に沈黙が落ちる。喫茶店の音楽が流れ続けているのが、なんだか間抜けに思えた。
 やがて、ユミは沈黙を破って、こう言った。
「大学の……哲学科にでも、行けばいいんじゃない?」