「諸行無常、ってことでしょ」
 今日、ユミは僕の話を聞いて、そう断じてみせた。
「いや、そうなんだけどさ」
 僕はユミの言ったことに、何か納得がいかず、反論しようと試みる。
「確かに、その通りだよ。祇園精舎の鐘の響きがするよ。でも、それを言っちゃうとさ、それだけで終わっちゃうじゃん」
「……そのどこがいけないの? いいじゃない、それだけで終われば」
 ユミには、こういうところがある。サバサバしすぎているというか。遠慮無く言えば、俗物なのだ。
 今日、会ったきっかけからしてそんな感じがする。僕が最初、ユミの図書館カードを貸して欲しいと言ったのがきっかけだ。我らが市立図書館は、今度リニューアルするとかで、三ヶ月間も休館するばかりでなく、その間、蔵書は一切読めないというのだ。僕はユミの図書館カードの力を借りて、一冊でも多く、目当ての本を救い出したかった。
 それを聞いたユミは、ならついでに一緒に勉強してこよう、と言い出した。僕が、何だって高校が春休みの時に勉強なんかしなきゃならないのかと聞くと、私たちも来年は三年生なんだから、受験があるじゃないかとユミは答えた。僕はこれにたいそうげんなりさせられた。
 僕が勉強の件は丁重にお断りしようとすると、彼女はなら図書館カードも貸してやらないと言い出した……わざわざ親切で図書館カードを渡すためだけに家を出てくるなど面倒なのだという。
 到底ユミが僕と付き合っているとは思えない言いぐさだった。もしかすると、僕とユミは既に終わっているのかも知れないと思う。そもそも、もし僕らの間になにがしかの愛情というものがあったのだとしたら、いくら俗物のユミでも暴徒と化した子役の一件を「諸行無常」で片付けなかったのではないかという気がする。僕が「話したいことがあるから」と言って図書館の自習コーナーではなくカフェで勉強していこうと提案した時だって、彼女は「僕がおごるから」と言わない限りいい顔をしなかった。
 その上での「諸行無常」である。
「上手く言えないけどさ、でも、何となく、それだけで終わらせちゃダメな気がするんだよ」
 とはいえ、僕もこの程度にしか食い下がれないのだから、偉そうなことは言えない。