現実の前に絶望し、道化を演じるのにもすっかり慣れ、老後の年金生活の不安に頭を悩ませるだけになっていた私の前に、彼は現れました。
 初めて出会った時、彼は、そこらへんに掃いて捨てるほどいる新米弁護士に過ぎませんでした。強いて言えば、青いスーツと頭のトンガリが、他の弁護士とは違うところだったでしょうか。
 進行する裁判を眺めている間、私は、今回も検察側の勝訴は確定的だろう、と思い、木槌を振り下ろす瞬間をいまかいまかと待ち構えていました。しかし、その弁護士は審理をずるずると引き延ばしていたかと思うと……ほんのちょっとした糸口から真実を解き明かし、いつの間にか形勢を逆転させ、最終的には、なんと裁判に勝ってしまったのです。
 とはいえ、最初は私もまぐれだと思いました。しかし、それが二度、三度と続いてくると……私は、目を見張る思いでした。
 しかも、私の見る限り、その弁護士は証拠も証言もねつ造したりはしていませんでした。でまかせ半分のハッタリや見苦しい屁理屈で審理を引き延ばすことはありましたが、これは、すぐに判決を下そうとする私にも責任があります。また、中には、依頼人を無罪にする一方で、証言台に出てきた証人に罪を着せて有罪にしてしまうというやり方を繰り返す彼に、疑惑の目を向ける人物もいますが、これは杞憂でしょう。彼が立証した事実は全て、何度見返しても、反論の隙のないものだったのですから。
 もっとも、この弁護士くんも、裁判長を小馬鹿にした態度だけは、他の検事や弁護士と大して変わらないのですが……。