考えてみれば当然だった。室内で大切に飼われているはずのチワワが、首輪もつけずに雨の中をうろうろしているなんて、そうそうあるはずない。だったら真っ先に、捨て犬と考えるのが自然だ。おおかた、子犬が生まれて手に負えなくなった飼い主が、勢い余ってうっちゃってしまったとか、そういうことだろう。
「どうするの、この子たち……?」
 未空ちゃんは、僕には解けない謎を、簡単に解いてしまったりする。でも、そんな未空ちゃんにも、答えられない問いはあった。
 未空ちゃんはふと、手の中のチワワ――母親だ――を僕に差し出してくる。僕は、自然な流れで、それを受け取った。特に意味はないつもりだった。
 ところが、未空ちゃんはこう言った。
「あなたが飼いなさいよ」
 この答えには、僕もびっくりだ。
「無理だよ! うちの親は厳しいんだ」
 すると、未空ちゃんはそっぽをむいてしまう。
「うちだって、マンションだから飼えないわよ」
「そんな勝手な」
「そういうことは、この子たちの元の飼い主に言ってよ」
 僕は、いつもいつも、未空ちゃんのわがままには慣れっこだった。尊大な態度も、傲慢な発言も、僕は気にもとめなかった。
 でも、これにはなぜか、頭がかっとなった。
 そして、僕はつい、こう言ってしまった。
「……そうだね。きっと、この子たちの飼い主も、未空ちゃんみたいに勝手な人間だったんだろうね」
 それを言った瞬間、未空ちゃんの顔色が変わった。我に返ったようにハッとしたかと思うと、次の瞬間には、僕の目をじっとみつめる、彼女の双眸があった。
 僕が、あ、怒られる、と思ったその瞬間、未空ちゃんは言った。
「……そうだね。ごめん」
 その顔は、ふざけている風ではなかった。とても真剣に、彼女は謝っているらしかった。
 そのことを認識するのに、ちょっと時間がかかった。どうにか思考が追いつくと、僕は激しく動揺した。
 謝っているのだ。あの未空ちゃんが、僕に。それは、ちっとも嬉しくないだけじゃなくて、同時に、僕をとても不安にさせることだった。
「え、えっと」僕は動転したままの頭で、何とかこう言うのが精一杯だった。「いや、いいんだよ。僕も言い過ぎたよ。気にしないで」
 だが、未空ちゃんは言った。
「ううん、違う。私が悪かったの」
 そう言われると、僕にはもう、何も言えなかった。
 降りしきる雨が、路面に当たって、音を奏でている。
 僕は、雨が僕の代わりに何か言ってくれないかと期待していたけれど、冷たいカーテンの向こうから何かが現れることは、ついになかった。