未空ちゃんはそれ以上チワワが濡れないよう、レインコートをたくし上げて、できた袋の中にチワワを入れて歩いた。器用なことに、左手でチワワの小さな体を支え、右手で傘を差していた。
 道中、僕は、少し前から疑問に思っていたことを口に出した。
「でも、ちょっと変だよね」
「何がよ」
「だって、こんな雨の日だよ? 僕が脱走する犬だったら、もっと天気の良い日を選ぶと思うけどな。どうしてそのチワワは、わざわざこんな雨の日に、脱走なんかして、迷い犬になったんだろう」
「それは……あなたにしては確かに、良いところに目をつけたけど。でもそんなの、飼い主を探せば、分かるわよ」
 そうして僕らは、未空ちゃんが当たりをつけた、中野公園までやってきた。
「さて。この当たりの家に、聞き込みでもしてみましょうか。何人かに聞けば、きっとチワワを飼っている家に心当たりのある人の一人や二人――」
「未空ちゃん、ちょっと静かに」
「何よ?」
「何か聞こえない?」
「え?」
 不機嫌そうに言いつつも、未空ちゃんが黙ると、周囲には小雨が降りしきる音だけが残った。
 そんな、レースのように薄くて繊細な音のカーテンを抜けて、微かな声が聞こえてくる。
「こっちだ」
 そう言って、僕は未空ちゃんを置いて駆けだした。
 声は、公園の中に植えてある、アジサイの方から聞こえてきた。嫌な予感がした。
 アジサイの前に着くと、僕は立ち止まって、足元に視線を向けたまま、未空ちゃんを待った。
「もう、この子がいるんだから、走れるわけないでしょ、少しは考えてよね」
 文句を言いながら追いついてきた未空ちゃんに、僕は言った。
「未空ちゃん、君の推理は正解だ」
 僕は「もらってください」と書かれた段ボール箱に入れられた、四頭の子犬を指差しながら、こう言った。
「その子は、ここから来たんだ」