未空ちゃんはまず真っ先に、チワワの足の状態に注目した。
「見なさい、真」
 そう言って未空ちゃんが指差したのは、チワワの足だった。
 見ると、チワワの足先が泥で汚れている。
「これから、何が分かる?」
「ええっと……赤茶けた感じの、この辺ではちょっと珍しい感じの泥だね」
 すると、未空ちゃんはすごくわざとらしいため息をしてみせた。
「呆れた。たったそれだけ?」
「それじゃあ未空ちゃんは、何が分かるの?」
 僕はあからさまにバカにされても、今さらさして腹も立たず、そう聞き返した。
 すると未空ちゃんは
「ふふん」と上機嫌に鼻を鳴らしながら、こう解説し始めた。「確かに、この子の足には泥がついている。赤茶けた感じの、特徴的な泥ね。でもそれだけじゃない。泥のついた部分の、少し上を見てみて」
「ええっと……」
「まだ分からないの? そこだけ妙に、濡れ方がひどいでしょう? 毛がべったり、足に張り付いちゃうぐらいに」
 言われてみれば、未空ちゃんの指摘のとおりだった。チワワの毛の他の部分は、雨で濡れてはいるけれど、小雨だからか、そこまで濡れ方がひどくない。
「つまり、この子はまず最初に、深いけど濁っていない水たまりに入って、その後、浅いけど赤茶けた泥で濁った水たまりに入った、ということが分かるのよ」
「どうして、逆の順番じゃないって分かるの」
「あなたって、ほんとバカね。最初に泥水の中に入ったんだったら、その後濁ってない水に入った時に、泥は洗い流されちゃうはずじゃない」
「な、なるほど」
「以上の推理から、この子がどこから来たのかが分かるわ。まずこの赤茶けた泥は、きっと中野公園の南側付近の土ね。さらに、あの公園の北側には水はけの悪い場所があって、そこは雨が降るたびに深い水たまりができるわ」
「じゃあこのチワワは、そのあたりから来たんだ」
「私の推理が正しければね」この発言は、決して彼女の謙虚さを示しているわけじゃない。なぜなら、次の一言とセットだからだ。「さあ、確かめに行くわよ。当たってるに決まってるけどね」