その時を最後に、私とリコはAの担当を外れた。上司は、はっきりとは言わなかったが、私がAに感化されたのではないかと疑っているようだった。
 Aが死んだという知らせを聞いたのは、リコからだった。
「拷問中の『事故』だったそうだ」
「そうか」
 まあそういうこともあるだろう、と私は思った。よくある、というほどではないが、まあ、たまにあることだ。
「何にせよ、これでまた、世界の悪人が一人死んだ、ってことかもな」
 半ば投げやりに言うリコに対し、私は口を開いた。
「……いや、死んだのは――」
「ん?」
「……何でもない」
 私は何か言いかけたが、やめた。
 私はあの時、死んだのは、何だと言おうとしたのだろう。今もって、私自身にも、よく分からない。
 私の思案顔を見て取ったリコが、なぜかにやにやと笑みを浮かべていた。
「なんだ、その顔は」
「その様子じゃ、どうやらあの噂を知らないな?」
「噂?」
「Aが死んだっていうのは、職員の動揺を防ぐための偽情報で……本当は生きて脱走したんじゃないか、っていう噂だよ」
 そこまで聞いて、ようやく私も笑った。
「バカな噂をするやつがいるもんだ。確かにやつは、殺しても死なないんじゃないかと思わせる性格をしていたが」
「ああ、まったくだ……だが、面白い噂だ」
「……それは、認めないでもない」
 いつの間にか、リコの顔が無表情に戻っていた。リコは仏頂面のままで、黙って私の元を離れていく。
 ひょっとするとリコは、Aを逃がしたのは私ではないか、と探りを入れに来たのかもしれない。
 残念ながら、Aを逃がしたのは私ではない。Aが本当に生きているのかどうかさえ、私は知らない。
 Aは、殉教者として、自分が信じる神の元へ召されたのだろうか?
 あるいは、神が命じるままに、今もどこかの荒野を駆けずり回っているのだろうか?

 答えの出ない問いを……いや、答えを出す必要のない問いを胸に抱えながら、私は次の尋問へと向かった。

                                                                              完

 


 

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