そうして昼休み……と言いたいところだったけれど、その日は大雪のせいで、学校が半日で休みになってしまった。だから、昼休みではなく、放課後だ。
 そんな放課後、僕と未空ちゃんは、昇降口の前で経瀬ちゃんを待ち伏せした。
 経瀬ちゃんは友達と一緒だったが、僕らが待っているのを見ると、友達を先に帰らせて、僕たちと向き合った。
「このチョコ」
 と、未空ちゃんは経瀬ちゃんにチョコの箱を突き出す。
「あなたが真に渡したんでしょう」
 あ、真というのは、僕の名前。念のため。
 未空ちゃんにいきなり詰問された経瀬ちゃんは、すごく怖がっていて、見ていて可哀想だった。けれど、僕が割って入ろうとするより早く、経瀬ちゃんは答えた。
「は、はい。そうです……」
「……」
 未空ちゃんは、どうもやっぱり、次に何を言ったらいいか今ひとつ分からないようだった。こういう未空ちゃんは珍しい。レアだ。
「あ、あなたは」未空ちゃんはどもりながら言った。「ま、真のこと、どう思ってるのよ?」
「ま、真くんは……」
 経瀬ちゃんの顔がみるみる赤くなる。
「真くんは……とっても優しくて、真面目で……すごく信頼できる……」
 未空ちゃんが息を呑むのが、僕にも伝わってきた。
 そして、経瀬ちゃんは意を決して、その一言を言った。
「……大事なお友達です」
「……は?」
 拍子抜けする未空ちゃん。
「お友達?」
「は、はい。お友達、です……」
「……これ、義理チョコや友チョコには見えないけど。友達って言うんだったら、どうしてこんなチョコを真に?」
「はい、そこまでだよ、未空ちゃん」
 ようやくここで、僕は種明かしをすることにした。ちょっと遅すぎたかな。
 僕は未空ちゃんの前に立つと、未空ちゃんからチョコを取り上げ、すぐにまた、未空ちゃんの手に戻す。
「これ、未空ちゃんに」
「わ、私に?」
 未空ちゃんは予想外のことにすっかり驚いて、目を丸くして僕を見ている。あ、これ、ちょっといい気分。
「言ったよね。チョコに手紙が添えてあった、て。その手紙にはね――」
「待って、真くん」
 経瀬ちゃんが僕を止める。
「やっぱり、そこから先は、私が自分で話すよ。そうしなきゃダメだと思う」
「経瀬ちゃん……」
「なに、なんなの……もう、どっちでもいいから早く説明してよ!」
 僕と経瀬ちゃんの顔を交互に見ながら、未空ちゃんが音を上げる。
 経瀬ちゃんは、自分の言葉で話し始めた。
「未空ちゃん、あのね……私、未空ちゃんと友達になりたいな、って思って」
「私と、友達に……?」
「ずっと前から思ってたの。冬休みの旅行の時に、仲良くなれたと思ってたんだけど……学校が始まってから、あんまりお話できてなかったから」
 未空ちゃんは、僕と経瀬ちゃんが近づくと怒る。
 ところが、僕は未空ちゃんとしょっちゅう一緒にいる。だから、経瀬ちゃんが僕じゃなくて、未空ちゃんと話したいと思って近づいてきても、未空ちゃんは怒ってしまっていたのだ。
「だから、バレンタインに友チョコをプレゼントして、仲良くなれないかな、って……でも、なかなか勇気が出なくて」
「そ、それで、真に代理で渡してもらおうと……?」
「ごめん、やっぱり、ダメだったよね」
「いや、ダメってわけじゃ……ないけど」
 未空ちゃんは、その時になってようやく、僕から渡された、経瀬ちゃんのチョコに目を落とした。
「あ、ありがとう」未空ちゃんは、少し気恥ずかしそうに言った。「だ、大事に食べる」
 するとまた、経瀬ちゃんの顔が赤くなった。
「た、食べたら、感想聞かせてね!」
 慌ててそう言うと、恥ずかしさに耐えられなくなったのか、経瀬ちゃんは逃げるように走り去ってしまった。うーん。初々しい。

 そうして、また僕たち二人が取り残された。