その瞬間、あたりはシーンと静まりかえって、深夜の静寂が戻っていた。大人たちが起きてこないかどうか不安だったけれど、奇跡的にも、部屋の方で物音がした気配はなかった。
「もうやめて……」経瀬ちゃんは、涙ながらに語った。「ここにいるみんな、友達でしょう? 友達同士で、こんな酷い争いをするのはやめて」
「そ、そんなこと言ったって……」
 とは言いつつも、珍しく口ごもる未空ちゃん。
「でもさ、佐藤」そこに、次郎くんが言った。「真のカリウードが消されたっていうのは、シャレにならないことだよ。大人たちは笑うかもしれないが、これは許せない。犯人を見つけて、罰を受けさせなきゃ」
「罰を受けさせるなんて……そんなことして、何になるって言うの? そんなことしたって、真くんのカリウードは戻ってこないじゃない。ね、真くんもそう思うでしょう?」
 経瀬ちゃんは、そう僕に聞いてくる。
 そこでふと、僕は気づいた。僕は確かにゲームのデータを消されたし、そのことは疑いもなく犯罪だろうけれど、僕は一言も犯人を見つけてくれとか、罰してくれとか言った覚えはない。でも、話はいつの間にかどんどん進んでいって、こんなことになってしまっている。
 もちろん僕も、犯人を見つけたい、見つけるべきだとは思う。……でも、もし仮に、いや別に僕は犯人を見つけて欲しいとも罰してくれとも思ってないのでこの話はここまでにしてさっさと寝よう、とか言い出したら、みんなはどう思うだろうか。経瀬ちゃんはそれでいいと思うかも知れないけど、他の三人は、ものすごく変な顔をするんじゃないだろうか。そして、僕を明日から、信用のおけない変人として扱うんじゃないだろうか。未空ちゃんとも、今までみたいな関係ではいられなくなって、もしかしたら、嫌われてしまうんじゃないか。どうしてだか分からないけど、なんだかそんな気がする。
 そんな考えに捕らわれて、僕は経瀬ちゃんの問いに、黙りこくることしかできなかった。「そ、それじゃ、佐藤はどうしろって言うんだよ……」次郎くんが言う。「このまま無かったことに、なんてわけには、行かないだろう?」
「そ、それは……」
 それっきり、誰も何も言わなくなってしまった。
 経瀬ちゃんは沈痛な面持ちでうつむき、次郎くんも無表情を装っているが、固まったままだ。太郎くんは神経質に眼球をキョロキョロ動かしながらも黙ったままで、肝心の未空ちゃんはというと、腕を組んだまま難しい顔をして、微動だにしない。
 僕はというと、そんな凍り付いた空気の中で途方に暮れてしまった、ふと、手元の携帯ゲーム機を見やりながら、こんな言葉を漏らした。
「消えたデータが、簡単に復旧できたら良かったのにな……」
 その瞬間、考え込んでいた未空ちゃんが、はっと顔を上げて、僕の方を見た。
「それよ! 真!」
「え?」
 僕は、未空ちゃんの晴れやかな顔が、暗闇の中に咲いた大輪の花のように思えて、思わず気後れしてしまった。
「それよ! それが一番だわ!」