「何よ、回復役が一人もいないじゃない」
「そういうのは女の仕事だろ」
「次郎くん、それは偏見だよ」
「えっと、えっと」
「経瀬ちゃん、とりあえず未空ちゃんが引きつけたゾンビを後ろから殴ろう」
「ちょっと! 何勝手に人を盾にしようとしてるの!」
 とまあ、こんな感じで、なかなか楽しい。昔からよくあった対戦プレイのゲームと違って、ゾンカルは協力プレイなので、ゲームで勝ちすぎて気まずくなり、友達同士の関係が上手くいかなくなるということもない……はずだった。
「ああ、もう死んじゃった」と経瀬ちゃん。
「おい坂井~何だよそのキャラ。レベル低すぎじゃん」
「いや、だってさ」
「ま、まあまあ次郎くん落ち着いて。佐藤さん、復活してもう一度だ」
「は、はい」
「ちょっと真、佐藤経瀬にくっつき過ぎなんじゃない? セクハラで訴えられたくなかったら離れなさい!」
「え、だってこうしないと画面が見えないから……」
 などと会話する間も、三人は黙々とゾンビを斬り、撃ち、殴り続ける。性格どおりに激しい近接攻撃を繰り出す未空ちゃんも、性格に似合わず的確な遠隔攻撃で戦闘をサポートする次郎くんもなかなかの腕前だ。だけど、何と言っても太郎くんが強かった。キャラも一番育っているし、誰かが危なくなったらすかさずコンボを繰り出してゾンビを引きつける腕前は、なかなかのものだった。
 が、これでゾンビもなかなか強い。戦場に到着した経瀬ちゃんは、またすぐに死んでしまった。
「もう、ダメね。真、少しお手本を見せて上げなさい」
「う、うん。経瀬ちゃん、ちょっと貸して」
 このままだと負けてしまいそうだったので、僕はいつも使っているメインのキャラに切り替えて復活する。
 戦場に到着すると、なかなか苦しい戦況だった。次郎くんは弾切れ寸前、未空ちゃんはスタミナ切れを起こしてて、頼みの綱の太郎くんも、次郎くんか未空ちゃんが倒れれば危なそうだった。しかし、ゾンビの方も、ライフゲージの八割を削られている。
 ここは一気に決めよう、と思った僕は、スタミナの回復がなくなる代わりに攻撃力がアップする技を使用。
 体中をオーラが包んだのを皮切りに、体当たりで一気に接近、よろけたゾンビに上方攻撃を当てて浮き上がらせ、絶え間ないコマンド入力で空中コンボを叩き込む。この日は調子が良く、実戦としては最高記録の五十二連コンボを達成した。
 スタミナ切れでコンボが途切れた僕のキャラが地面に降り立ったのと、ゾンビがその巨体を地に横たえたのは、ほぼ同時だった。
「ふー。なんとか仕留めたね」
 僕がそう言って、画面から顔を上げると、なぜかみんなの視線が僕に集中していたので、僕はびっくりした。みんななんだか、唖然としている。
「ど、どうしたの、みんな」
「真……あんたって、時々本当に、恐ろしいことをさらりと言ったり、やったりするわよね」
 未空ちゃんは顔を引きつらせているし、
「すっげー……坂井ってゲーム得意だったのか」
 次郎くんは素直に感心してるし、
「すごいよ、真くん! まるでサーカスみたいだった。今のどうやったの?」
 経瀬ちゃんに至っては、目をキラキラと輝かせている。
「え? え?」
 よく分からなかったけれど、みんな僕を褒めてくれているようだった。悪い気はしない。
「……ず、ずるいよ!」しかし、太郎くんだけは少し違うようだった。「坂井くん、ずるいよ、そんなキャラを隠してたなんて!」
「べ、別に隠してたわけじゃないよ」
「嘘つけよ! ならどうして、佐藤さんにはそのキャラを使わせなかったんだよ!」
「そ、それは、このキャラは空中コンボに特化してて、初心者には扱いにくいから」
「だって……だって!」
 太郎くんはそれでも何かしようとしたようだったが、見かねた未空ちゃんが止めに入った。
「まあまあ、中田もそのへんにしときなさいよ。真って、すごいやつの癖にどこか抜けてるけど、そんな意地悪をするやつじゃないわ」
「未空ちゃん……!」
 僕はこの女帝から飛び出た発言に、ちょっぴり感動した。
「わ、分かったよ」
 太郎くんはまだ不満そうにしていたけれど、結局は引き下がった。
「よし。じゃあ一件落着したところで」と次郎くん。「もう一戦行こうぜ」
 が、そこで外野からクレームが入った。
「何がもう一戦よ! そうは行くか、この悪ガキども!」
 見ると、太郎くんのお姉さん――いつも太郎くんをいじめるという、中学二年生――が、パジャマの上にショールを羽織りながら、廊下から顔を出していた。
 さすがの僕たちも、その剣幕には怖じ気づいて固まってしまう。
「さっきから騒がしいと思ったら……子供は寝る時間よ!」
「ご、ごめんよ、姉ちゃん」と太郎くん。「次からは静かにやるから」
「ダメ! お母さんたちが帰ってくるまで、あなたたちがゲームをやってたら、怒られるのは私なんだからね」
「そ、そんなあ」
「いいこと? あなたたち、ゲーム機をそこのテーブルの上に置いて寝なさい。ベッドの中から通信対戦やられたらかなわないんだから」
 次郎くんの表情が曇った。どうやらそうするつもりだったようだ。
「わ、わかったよ」
 返事を聞くと、太郎くんのお姉さんは、不機嫌な顔をしたままペンションの奥の方に入っていった。
「……ごめん、姉ちゃん、スマホの乙女ゲーに貯金をつぎ込んだのがバレて、スマホを取り上げられてるから、苛立ってるんだ。それに、昨日、徹夜の弾丸ツアーでアイドルのライブに行って帰ってきたばっかりだから、寝不足でさ」
「太郎、聞こえてるわよ」
「ひい!」
 奥の台所のあたりからした冷たい声に、太郎くんは震え上がった。
 未空ちゃん以上の女帝ぶりだなあ、と僕は他人事のように思う。
 すぐにお姉さんは戻ってきて、僕たちを前にして言った。
「分かったら、みんな、ゲーム機をテーブルの上に置いて、自分の部屋に戻りなさい。大人しく寝るのよ」
『はーい』
 こうして、僕たちの楽しい旅行の夜は終わった……かに思えた。