ooi_genpatsu_title

二〇XX年。陸上自衛隊特殊作戦群第二中隊長、佐多数馬は、耳を疑うような指令を受け取る。「警備員に対する抜き打ち訓練として、関西電力大飯原発を襲撃し、これを占拠せよ。可能なら無血占拠が望ましい。指揮官が必要と認めた場合、実弾の携行・使用を許可する。この演習の実施は、原発警備側には一切事前通知されない」。防衛大臣の署名が入ったその指令に疑問を持ちつつ、陸上自衛隊は演習の実施に向けて動き始める。


だが、彼ら自身にとって意外だったことに、作戦が成功裏に終わった途端、世界中が大騒ぎになる。幸い、誤解はすぐに解けたが、受け取った命令が偽造されたものであることが分かり、犯人捜しが始まった……


 

 

掲載時期 ジャンル 分類 分量
2012年6月 軍事スリラー 短編 6ページ

 

 二〇XX年 某月某日 某陸上自衛隊駐屯地内

 陸上自衛隊特殊作戦群第二中隊長、佐多数馬三等陸佐は、その日、耳を疑うような指令を受け取った。
 その指令は「受取人以外の開封を厳に禁ず」と印刷された茶封筒に入って、佐多の個人オフィスにある机の上に無造作に置かれていた。持って見たところ、文書が入っているらしい。謎の封筒の出所を誰かに聞こうかとも思ったが、その印刷された内容から機密情報かもしれぬと思い、また自衛隊駐屯地の真ん中に危険物が置いてあるわけもあるまいとやや慢心もあって、佐多はその封筒を開封した。
 中から出てきたのは、表紙に「防衛秘密」と印刷された命令書だった。これは一大事であると、佐多はオフィスの入り口に鍵をかけ、改めて命令書に向き直った。
 陸上自衛隊特殊作戦群は、陸自初の特殊部隊だ。二〇〇四年に創設され、今日まで猛訓練を続けてきたが、PKOとそれに類する任務で情報収集や一般陸自部隊への教育訓練などを請け負った以外に、実戦に出動したことはない。特に敵性武装勢力と交戦する可能性がある任務に出動した経験は皆無だ。もっとも、それは佐多がそう思っているだけで、自衛隊の中でも特に機密性の高いこの部隊のことだ。自分も知らない出動が数多くあるかもしれない。特殊作戦群とはそういうところだった。
 その特殊作戦群に送られてきた、防衛秘密の命令書。これはただごとではなかった。
 しかし、と佐多は疑問に思うこともあった。出動命令なら、上官である群長から発せられるはずで、命令書はその群長のさらに上に位置する組織……たとえば中央即応集団司令部や、統合幕僚会議……から群長に届くはずだった。なのに、なぜ一足飛びに現場の中隊長である自分の元に命令書が、と佐多は思った。
 しかし、とりあえず佐多はページをめくってみる。そこに記された衝撃の内容に、佐多は目を見張った。
 命令書にはこう書かれていた。
「発:日本国安全保障会議
 宛:陸上自衛隊特殊作戦群


 警備員に対する抜き打ち訓練として、関西電力大飯原発を襲撃し、これを占拠せよ。可能なら、無血占拠が望ましい。指揮官が必要と認めた場合、実弾の携行・使用を許可する。この演習の実施は、原発警備側には一切事前通知されない。

備考:大量破壊兵器の使用は、これを許可しない。無抵抗の民間人に対する殺傷力のある攻撃は、これを許可しない。自衛隊の他部隊からは必要な支援を受けられる。演習終了まで、この演習は防衛秘密として扱われる。この命令書の内容は防衛秘密であり、情報漏洩を避けるため、上級司令部への問い合わせを禁ずる」
 最後に、「防衛大臣 諸月勝」との署名があった。
 何度もその命令書を見直したが、命令書の書式はいつも通りのものだったし、多少、表現が自衛隊式ではなかったものの、暗号解読を困難にするために表現を崩すのは特殊作戦群ではよくあることだった。
 それに、命令の内容は、驚きではあるが、必ずしも理不尽とは言えなかった。安全保障会議の政治家達は、原発がきちんと警備されているか不安になり、我々に抜き打ちチェックを依頼してきたと、そういうことだろう、と佐多は考えた。ただ、原発警備側に演習の実施が一切事前通知されないというのは引っかかった。実弾の使用許可もだ。こんなのは訓練とは言えない。だが、合わせて無血占拠が望ましいとも書いてあった。これは、我々特殊作戦群なら当然無血占拠するだろうという信頼の表れとも受け取れたし、実際、佐多には、不意打ちさえ許されるなら、自分と部下の力で無血占拠する自信があった。
 よし、やってやろうではないか。