ゲームが始まったぜ! などと未空ちゃんは言った。放課後から早速、僕らは捜査に着手することにした。
「阿部君がDVDを返して、また借りに来るのは、毎週水曜日。ちょうど今日だね」
「なるほど。じゃ、早速張り込みね」
 僕らは駅前で待ち合わせをした。僕は時間より十五分早く来て、どきどきしながら待っていた。だってデートみたいだ。初めての。
 未空ちゃんは、待ち合わせに五分遅れて現れた。手にはコンビニの袋。
「見て見て! 張り込みって言ったら、やっぱりあんパンとパックの牛乳だよね!」
 と、未空ちゃんは遅れたことを悪びれもせずに言う。それと、未空ちゃん、君は英国紳士じゃなかったのかい……? それに世代も違うよ……正直、親父臭いよ。
 こうして、僕と未空ちゃんは張り込みを開始した。ここで、未空ちゃんは思わぬ強さを発揮した。僕がお店をぐるぐる回り続けるのに飽き飽きして早くも帰りたくなっていたというのに、未空ちゃんは「張り込みは忍耐よ」と頑として続けたのだ。
 すると、阿部君が店内に入ってきた。阿部君は眼鏡をかけてちょっと弱気そうな顔つきをした男の子で、片手にDVD店の袋を持っていた。ちょうど僕たちは入り口のあたりに差しかかったところだったので、さりげなく棚の陰に隠れて成り行きを見守った。
 阿部君はまず真っ先にカウンターへと向かった。その時点で、未空ちゃんは、確かに変ね、と言った。
「店に入ってすぐのところに、返却ボックスがあるわ。返却ならそっちに放り込んだ方が早いのに」
 未空ちゃんの言う通りだった。阿部君は、わざわざカウンターに並んでまで、返却処理をしてもらっていた。
「むむむ……私の灰色の脳細胞が……あれ、なんだっけ?」
 未空ちゃんは英国紳士以外には詳しくないのだ。
 返却処理を終えた阿部君だったが、もちろんすぐには帰らず、一時間ほど店内をぶらぶらしていた。その間、僕たちは阿部君に見つからないように、かつ阿部君の一挙手一投足を監視すべく目を離さずにいた。が、さすがにたぶん気づかれていたと思う。店員さんにも怪しげな目で見られていたし。知らぬは未空ちゃんばかりだ。
 すると、店員さんがDVDの山を抱えてカウンターから出てきた。店頭にDVDを並べ直すのだ。阿部君はそれに気がつくと、店員さんの後をつけ始めた。見るからに怪しい。
 やがて、店員さんはアニメ映画のコーナーに差しかかり、手慣れた感じでぱっぱと、空のケースにDVDを入れ直していく。店員さんが次の棚へと移るなり、阿部君はさっと棚に駆け寄って、一枚のDVDを手に取ると、真っ直ぐにカウンターへと向かった。
 その様子を見ていた僕らは、阿部君が立ち去るや否やすぐに、阿部君が手に取ったDVDを確かめた。
「名刑事ピーター・空の上の捜査官……人気アニメの劇場版、二年ぐらい前のやつね」
「うん。世界最年少の少年刑事が、悪の組織に毒薬を飲まされて大人になっちゃう話」
「阿部君が借りているのは、いつもこのDVDなの?」
「うん。間違いないよ」
「どうしてそれに気づいたの?」
「ああ、僕もこの映画見たいんだ。でも、いつも借りられてるんだよね。それで意識してたら、阿部君が二回連続で借りてるのを見かけて」
「ふーん……確かに、これは事件ね」
 何が確かなんだろう、と僕は思うが、大好きな未空ちゃんが楽しんでいるみたいなので、僕も楽しい。
「どうする? 阿部君を尋問する?」
「んー……それはやめておきましょう」
「じゃあ、拷問する?」
「あなたって人は……ダメよ。いま問い詰めたら、証拠を隠滅される恐れがあるわ」
「証拠って?」
「それはまだ分からないけど……そうね。どこから手をつけたものかしら」