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僕は坂井真。小学五年生。僕が大好きな森村未空ちゃんは、熱狂的なシャーロッキアン。いつも事件を探している、かなり危ない小学生だ。

その朝、僕はいつものように、未空ちゃんに事件になりそうなことを報告していた。そのうちの一つに、未空ちゃんは興味を示した。

 

「毎週毎週、同じDVDを借り続けている子がいる……? これは事件の臭いがするわ」

 

 

掲載時期 ジャンル 分類 分量
2013年5月 ミステリ(?) 完結した掌編 4ページ

 

 僕の名前は坂井真。小学五年生。ちなみに軍隊のお医者さんではないし、アフガニスタンなんか行ったこともない。もちろん足を撃たれたこともない。
 にも関わらず、森村未空ちゃんは、僕と初めて会うなり握手してきて
「アフガニスタンからはいつ?」
 なんて聞いてきた。僕は固まったまま何も答えられなかった。半分は、その質問の突拍子のなさのためで、後の半分は、未空ちゃんの整った顔立ちとか、長くて綺麗な髪の毛とか、白くて綺麗な肌とか、握手した手のふにふにした柔らかさとか、とにかくそういうもののためだった。
 そうして僕が惚けていると、未空ちゃんはパッと手を離して
「あなたは『使えそう』ね……」
 なんて言った。
 それからのことだ、僕が彼女の「助手」になったのは……。

 

「どう、坂井くん。登校中に死体は見かけなかった?」
「……ごめん。今日もダメだったよ」
「もう! しっかりしてよね! そんなことじゃこの街の平和は守れないよ!」
 登校して来るなり、今日も未空ちゃんはそう言った。毎日のことなので、もうすっかり慣れてしまったのだけれど、怒られても平然としていると「何よ、その態度!」と言ってまた怒られるので、僕は反省する。でも、反省する振りをすると僕の良心が咎めるので、本気で反省する。そうすると、僕も楽で、彼女も楽しくて、それがきっと一番いいんだと思う……たぶん。
「あ、でも、ミミズの死骸なら見かけたよ」
 僕がそう言うと、未空ちゃんはちょっとだけ身構えた。
「まさか、持ってきてないでしょうね……?」
「いや、事件性はないと思って」
「う、うん。いい判断だわ」
 未空ちゃんの顔色が元に戻った。そういえば以前、僕が雀の死骸を学校に持ってきた時、未空ちゃんは飛び上がらんばかりに驚いていた……そういうところ、ちょっと可愛いな、って思う。雀の死骸を校庭の隅に埋葬した後「あなたって、時々すごく恐ろしいことを平気で言ったり、やったりするわよね……」と言ってくれたのは、今でもいい思い出だ。
「それで、他に事件っぽいことはあった?」
「うーんとね」僕は手帳を開く。
「近所の野良猫が子猫を産んだよ」
「まあ、それは見に行きたいわ」
「やっぱり、捜査するの?」
「え、捜査……?」
「だって、不思議だよね。子供って、どうしてできるんだろう?」
 すると、未空ちゃんは顔を赤くした。
「そ、そんなことは捜査しなくていいのよ! 次よ、次」
「うんとね……学校の近くに、ニートが住んでるらしいんだ」
「に、ニートって、自宅警備員のこと?」
「そうとも言うらしいね」
「そ、それをどうしようっていうの? 就職させるの? 危ないから通報するの?」
 僕は首をかしげた。
「なんでそんなことをするの? 僕はただね、そのニートが窓から『俺は発見した! 働かなくても意外と生きていけるんだ!』って叫んだっていうから、これを調べてみたいなって思って。人間は働かなくても生きていけるのか……捜査する必要があると思うんだ」
「あ、あのね、坂井くん。私たちは事件の捜査をしてるのよ……?」
 僕は思わず、未空ちゃんの顔をまじまじと覗き込んでしまった。
「人間は働かなくても生きていける……これが証明されたら、大変なことだよ。これは事件だよ」
「いいのよ……傷ついた人を、放っておいてあげるのも優しさなのよ、坂井くん……」
 未空ちゃんは何かがっくりと肩を落としながら、手を振って続きを促した。
「あと一つあるけど……これはどうでもいいと思うな」
「ふーん。もうそろそろ朝読書の時間だけど、聞くだけ聞いておくわよ」
「うん。隣のクラスの阿部君がね、近所のツダヤに、毎週DVDを借りに来てるの」
「へー、あの子映画マニアなのかしら。でも、それがどうかしたの?」
「大したことじゃないんだけど」と前置きして、僕は言った。「僕、気づいたんだ。阿部くんね、毎週同じDVDを借りてるの」