またある時、盗賊は街道の真ん中に倒れて旅人を待っていた。だが、まだ人の気配がないので、倒れながら物思いにふけっていた。
  この間の獲物は上等だったな、と盗賊は思う。おかげでいい思いができた。しかし、あの勇者が自分をののしったのを思い出すと、腹が立った。冗談じゃない。この商売だって楽じゃないのだ。街道を歩いているのが善人ばかりとは限らないから、危ない目にだって遭うし、仮に首尾よく上物を仕留めたとしても、たらふく飲み食いできるわけじゃない。太ってしまったら商売にならないからだ。こっちだって毎日せせこましく生きているのだ。真っ当な仕事に負けず劣らず苦労し、努力している、と、盗賊は胸を張る。
  おや、どうやら次の獲物が来たようだ。

  今度の獲物は、全く無警戒に罠にかかり、倒れた。
  だが、盗賊はあまり喜ばなかった。見るからにみすぼらしい身なりの男だったからだ。本物の行き倒れかもしれなかった。くそ、毒矢だってタダじゃないんだぞ、と盗賊は心の中で悪態をつく。
  盗賊が倒れた男に近づいてみると、男は体を横向きにして、こちらを見た。
  盗賊は少しばかり意外に思った。男の顔には安堵の色があったからだ。
  男は息も絶え絶えになりながら言った。
「良かった……あなたは、死にかけていたのではなかったのですね」
「良かった? 何を寝ぼけたことを言ってやがる。死にかけてるのはお前だろうが」
「いえ、あなたが無事なら、私はいいのです。最初から、覚悟していたことですから」
「覚悟?」
「ええ。罠かもしれないとは思いましたが、罠でもいいと思いました。あなたが息災だったようで、何よりです」
「……おい、薄気味悪いやつ。最後の言葉があるなら聞いてやるぞ」
「そうですか……私は勇者なのですが、みんなからはただのバカだとか、浮浪者だとか言われ続けました。しかし、いつも私は信じていました。勇気とは信じることではない、と。真の勇気とは、裏切られてもいいと思うことだ、と……」
  勇者はそのまま息絶えた。盗賊が持ち物を漁ってみると、パンが二つと、革袋の中に水が少し。それだけだった。
  盗賊はパンを一つと水が入った革袋を置いて、その場を立ち去った。