その後、三人は瞬間移動で王都に飛んだ。
 王都には、取り立てて変わった様子はない。が、賢者によると、姫を送り出す際に盛大な式典があり、その時はこちらも負けじと大変な祝宴が催されたそうだ。今は、さしずめ祭りの後といったところだった。
「で、これからどうします?」
 魔法使いが言うと、勇者は意気込んだ。
「結婚の背後関係を調べよう。必ず裏があるはずだ」
「なんもありゃせんよ。種もしかけも。もちろん、裏も。どうしても気になるなら、本人にでも確かめてみればいい」
 賢者はそう言いながら、辻馬車を呼び止めた。
「どこへ行くんですか」
「ああ、言い忘れ取った。わしゃ実家に帰る」
「は?」
 馬車の中で賢者が話すところによると、なんでも、例の不倫事件の一件以来、賢者は実家から勘当され、一時は路頭に迷って、もう少しでのたれ死にするところだったという。が、ちょうどそんな時、一人しかいなかった弟がメイドさんと駆け落ちしてしまい、跡取りがいなくなってしまった。そして、仕方なく賢者が実家から呼び戻されたのだという。
「そ、それで、なんでいまさら実家に?」
「もっと早く戻ればよかったんじゃなかったんですか?」
 勇者と魔法使いが口々に聞く。
「いや、あの鼻持ちならない国王に復讐をしようと思ってのう。勇者の血筋のお前と、魔導師の血筋の魔法使いを引き取って育て、魔王を討伐すれば、当然勇者が姫と結婚するじゃろ?」
「ええ、俺もそのつもりでした」
「そうして子供が生まれれば、ゆくゆくはわしは国王の祖父みたいなもんじゃ。国事を思いのままに牛耳れる……そう思ったんじゃが。こうも魔界と人間界の和解が急速に進むとはのう」
「いや、だからって、実家に帰るって……」
「わしももう歳じゃし。お前らにはずっと黙っとったが、実は実家には孫もおるんじゃよ」 あまりのことに絶句する二人。そうしているうちに馬車は賢者の実家に到着する。でっかいお屋敷だった。大貴族の屋敷に相応しいというかなんというか。人里離れた山小屋とは大違いだった。
「やれやれ。冬が来る前に帰って来れたのが不幸中の幸いじゃわい。あの山小屋は、すきま風が辛くてのう……」
 そう言いながら、どっこらしょと賢者が玄関前で馬車を降りると、五歳ぐらいの可愛い男の子が、玄関から飛び出して来た。
「おじいさま!」
「おお、孫よ!」
 抱き合う二人。とても仲が良さそうだ。
 普通なら微笑ましいと思うところだったが、勇者と魔法使いは、馬車の中で唖然としていた。
「賢者さま……山奥で瞑想するって言って、しばらく姿を消すことがあったけど」
「本当は、ただの里帰りだったんですかね……」
 そんな二人を尻目に、男の子は賢者に聞く。
「おじいさま、今度はどれぐらいいられるの?」
「ふふふ。実はな、今度はずっといるんじゃよ」
「わあ、すごい!」
「ふふふ……じゃ、二人とも達者でな。あ、その馬車代はわしのおごりじゃから。好きなところまで乗るがよいぞ」


 とりあえず、馬車を繁華街まで走らせる間、勇者と魔法使いは沈黙を保った。
 が、もうすぐ繁華街というところで、勇者がぽつりと言った。
「何かが激しく間違っている」
「……ですねえ」
 あまりといえばあまりのことに、魔法使いはため息をつきながら同意するのであった。