true dark lord「姫が魔王にさらわれた」との知らせを聞いた瞬間、勇者はついに自分の出番が来たと奮い立った。が、賢者は「魔王と姫は結婚するらしい」と言う……どうなる、勇者!?

 

 

 

 

掲載時期 ジャンル 分類 分量
2013年12月 ファンタジー 短編 4ページ

 

 

 使い魔のフクロウがその知らせをもたらした時、勇者は笑いがこぼれるのを抑えられなかった。
「フフフ……そうかそうか。ついに姫が魔王にさらわれたか」
「……なんだか嬉しそうですね、勇者さま」
 魔法使いの女の子は、勇者が剣の刃を研いでいる横で、少し呆れ気味にそう言った。
「当たり前だ、魔法使い。俺は、俺はこの日のために、剣の腕を磨いてきたんだからな!」
 勇者は先祖代々受け継いできた「勇者の剣」を高々と掲げてみせた。
「ついに……ついにこの時が来たんだ。多くの魔物を倒し、レベル上げに励んできた、これまでの年月は無駄ではなかった!」
「数年前には、乱獲による魔物の減少が社会問題になったぐらいでしたからね……主に勇者さま一人が原因でしたけど」
「うん。でもそれ以来はキャッチアンドリリースに努めてきたから、最近では回復傾向だ。やりがいのある冒険になりそうだ」
 魔法使いは何か言おうと思ったが、やめた。勇者とは長い付き合いだが、機嫌の良い時に何を言っても、この若者は馬耳東風なのである。
「では、早速、賢者さまにあいさつに行こう」
 勇者と魔法使いは、人里離れた森の中で、老賢者と三人で暮らしていた。両親を早くに亡くした二人にとっては、賢者はいわゆる親代わりだった。今でこそ賢者はだいぶ老け込んでしまったが、若い頃は国立大学を出たエリートでスポーツも万能と、将来を嘱望されていた勇者候補だったそうだ。それがなぜ賢者になったかというと、なんでも、こともあろうに国王夫人に手を出して、全国に指名手配されたのがきっかけだったのだそうである。
「賢者さま、大丈夫かしら……」
「どうした、魔法使い、しんみりした声を出して」
「だって……昔のことはともかく、賢者さまももうお歳だから、私たちが魔王討伐の旅に出たら……」
「王都の老人ホームに入れればいいんじゃないかな」
「そんなお金あるの?」
「あるよ。あれであのじいさん、金持ちのボンボンだからさ。魔法使いには教えてなかったけど、けっこう蓄えてるっぽいぞ」
「そ、そうなんだ……」
 二人が賢者の書斎に入ると、老賢者は安楽椅子に座ったまま笑みをこぼした。
「やあ、勇者、そして魔法使いよ。話は私も既に聞いた。良かったな」
「はい」
「え……?」
 賢者の「良かったな」に、勇者は即答したが、魔法使いは首をかしげた。それはそうだろう。姫が魔王にさらわれて「良かったな」とは。
「いやあ、めでたい、めでたいアハハハハハ」
「ですよねえアハハハハハ」
 高らかに笑い合う賢者と勇者。さすがに状況が分からなくなって、魔法使いは聞いた。
「あのう、姫が魔王にさらわれたのに『めでたい』って……どういうことです?」
「は? さらわれた?」
 賢者はそこに来て初めて笑みを引っ込め、怪訝そうな顔をした。
「違うんですか」
 それを見て、勇者も不安そうになる。
「違うも違う。大違いじゃ」
 賢者は言った。
「確かに、姫はいま、魔王城にいる……ただし、魔王の妃として、な」
「「……は?」」