これで二対一になる。生き残った二機のバーバリアンは、お互いにかなり近い距離を保って、領主の息子に対峙した。戦闘機は機銃掃射の軌道に乗ろうとしたが、バーバリアンの隊形を見るとすぐに回避して、距離を取った。
 どうしたのだろう、と思ったが、僕にもすぐ理由が分かった。バーバリアン同士があれだけ距離を詰めていると、戦闘機が一方を機銃で攻撃しても、その隙にもう一方から体当たりを食らうのだ。かといって一度に二機を落とすには、距離が離れすぎている。ミサイルは、もうとっくに撃ち尽くしているだろう。そこまで見越して本能でやったにしては、不気味なほど狡猾な怪鳥たちだった。
 戦闘機は、やはりいったんは距離を取った。だが、すぐにまた機首を返してくる。バーバリアンもそれに正面から向き合った。
 戦闘機は、そのまま真っ直ぐ突っ込んでくる。今度は、主翼前縁の青い線が、はっきりと見えた。
 一体なぜ……息を呑む僕を尻目に、戦闘機と二機のバーバリアンは急接近し、そして……何事もなかったかのように、すれ違った。
 だが、次の瞬間、戦闘機はそれまで聞いたことのないような轟音を伴いながら、急激な引き起こしを行って上昇した。機体が垂直になっても上昇を続ける。宙返りだ。地面から真っ直ぐ直立するような、綺麗な半円を描き終わった戦闘機は、そのまま緩やかな降下に入った。その機首の先には、背中を取られつつあることに初めて気づき、慌てて逃げようとするバーバリアンたちの姿がある。
 戦闘機はそのうちの一機に狙いを定めて急降下した。同高度まで降りてから水平に撃つのかと思いきや、かなり急な降下角をつけたまま撃ち下ろした。地上の平民なんかお構いなしと言わんばかりだ。現に、流れ弾が牧草地に突き刺さって土煙を立てた。
 しかし、難しい射撃だったにも関わらず、バーバリアンは見事に主翼を撃ち抜かれ、ライ麦畑に突っ込んだかと思うと、爆発、炎上した。残るは一機。
 その一機は、地面すれすれで上昇し始めた戦闘機の、すぐ前、やや左にいた。
 生き残りのバーバリアンは、首を巡らして後ろの戦闘機の位置を確認すると、翼を風に立てて急減速、機体をぶつけにいく。しかし、横滑りしながら上昇した戦闘機に、ひらりと交わされてしまった。そのまま、飛行する二機の軌跡はもつれ合うように絡み合う。
 戦闘機が、エンジンから赤い炎を噴きだしていた。アフターバーナーに点火して、最大出力を出している。バーバリアンはどうにかしてそんな戦闘機に食らいつこうとしていたが、じわじわと引き離されていき、逆に自分が後ろを取られそうになる。
 ふっと、バーバリアンが旋回をやめて、直進飛行に戻った。戦闘機はすぐ後方につく。
 だが、バーバリアンはまた翼を立てて急減速したり、小刻みに旋回したりして、戦闘機の狙いをつけさせないようにした。
 それを見て取った戦闘機は、再び上昇して距離を取る。
 どうすべきか考えたのは、ほんの一瞬だったみたいだ。
 戦闘機が急降下して後ろを取ると、バーバリアンは減速してぎりぎりの距離を保った。
 この距離で撃てば確実に命中するが、そうなれば戦闘機は、バーバリアンの残骸をもろに浴びてしまう。ただでは済まない。
 しかし、彼は構わず撃った。機関砲が咆哮し、バーバリアンの無防備な背中を粉々に打ち砕く。次の瞬間、バーバリアンは真っ赤な火の玉となって爆発し……戦闘機はその爆風の中に、頭から突っ込んだ。
 何もかも終わったと僕は思った。この島にただ一つあると思ったものが、ことごどく失われてしまったと。
 しかし、そうではなかった。
 黒煙の中から出てきて、戦闘機はまだ飛んでいた……翼はぼろぼろ、エンジンからはどす黒い煙を吐いていて、真っ直ぐ飛ぶのもやっとという有様だったが、まだ飛んでいた。
 僕は目を輝かせながら、彼を追いかけようと思った。そのままなら、海の方へ行ってしまいそうだった。
 しかし、すぐに彼が僕の方へとやってきた。ふらふらと頼りなげに翼を揺らしながら、彼は大きく左に旋回して、ライ麦畑の方へと機首を向けた。
 そのまま少し真っ直ぐ飛んで、機がいくらか安定したかと思った次の瞬間、突然、コクピットが弾け飛んだ。
 僕の心臓は飛び上がらんばかりだったが、真っ白いパラシュートが開くと、僕はほっと胸をなで下ろした。彼は無事に脱出したのだ。
 パラシュートにぶら下がって、彼はゆっくりと降りてきた。風に流されて、ライ麦畑の方へと落ちていく。
 その時、僕は初めて、彼の姿をこの目で見た。暗緑色の飛行服に身を包み、茶色のブーツを履き、黒いグローブをしていた。頭は灰色のヘルメットに覆われ、目元は黒いバイザに遮られて、見えなくなっていた。
 やがて彼は、ライ麦畑のただ中へと消える。
 その頃にはもう、僕は畑の中へと入って行って、立ち並ぶライ麦を手で掻き分けながら、一心不乱に彼の元を目指していた。
 僕と顔を合わせたなら、彼はどうするだろう。怒鳴りつけてくる気もする。けど、きっと、優しく笑いかけてくれるんじゃないだろうか。
 いずれにせよ、彼に会えたなら、僕は機械工になろう。父さんの目を見て宣言するのは、やっぱり嫌だけど、それでも機械工になろう。
 きっと彼も、僕と同じだと思うから。

                                                                              了

 

 


 

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