なだらかな坂を駆け登って、僕は川を右手に見ながら、島の北の方に向かった。
 走りながら、僕はある時のことを考えていた。あれは、若者が言ったのだったろうか。
 確か、川は順番に流れてくるんだ、という話だった。
 一番下流にある集落は、島で一番要らない場所。いくらでも取り替えが利く場所。それより少し上流にある、牧草地とライ麦畑は、集落に住む島民より、少しだけ貴重だ。
 そして、この島で一番尊いのが、川の最も上流、水源に居を構える貴族とその取り巻きたち、というわけだった。
 これには、そばにいた老人も首肯していた。そして、こうも付け加えた。昔、今から数えて二代前の領主の時代は、領主が上流で川を汚して、その水を下流の家畜や島民が飲んだりして、たびたび疫病に悩まされた、と。
 すると今度は、若者が言った。それをやめさせたのが先代の領主だ、と。飛行場を作ることを認めたのも、先代の領主だ、と。
 もっともその飛行場は、今では荒れ放題だけどな、と若者が嫌味を言うと、老人は肩を怒らせて反論した。確かに今はこの有様だが、いざ領主がまたおかしなことを始めたら、その時はここが役に立つのだ、と。
 僕はただ聞いた話から、二代前の領主は悪い人で、先代は良い人だったの、と聞いた。
 二人は、そうとも言い切れない、と言った。先代が良い人だったというより、世代交代をきっかけにして、新しいことがやりやすくなっただけだろう、と言う。
 持ちつ持たれつなんだよ、と誰かが言っていたように思う。貴族は税金を取り、その税金で戦闘機を駆ってバーバリアンを追い払う。平民は空の下で、牛を育て、麦を刈り、魚を獲る。平民は貴族を必要としているが、貴族が平民を必要としていないわけでもない。
 貴族と平民が喧嘩になった時はどうするの、と僕は聞いた。あんなちっぽけな高射砲じゃ勝ち目はないよね、とは言わなかった。
 僕が聞くと、若者は黙り込んだ。老人は苦笑いしながら言った。
「どうもしないよ。強い方が勝つだけだ」
 老人は貴族が勝つとは言わなかった。正しい方が勝つとも言わなかった。ただ、強い方が勝つと言った。

 

 僕は、飛行場に向かおうと思った。日は高いが、どうせまた誰もいないに違いない。中に入り込んだら、高射砲に触れてみよう、と思った。理由は分からなかったけど、とにかくそうしてみようと思った。そうすれば何かが分かるはずだと思った。
 だが、そうするまでもなかった。
 もっとすごいものが、空からやってきのだ。
 また、バーバリアンの襲撃だった。でも、今度のは違った。視界に見えるだけで、四機が一斉に草原へと降り立って、放牧中の牛を襲っているところだった。空にはもっと多い数の翼竜が舞っていた。すぐには、ちょっと数えられないぐらい。
 青い空に、赤い花が咲き始める。花は感覚を開けて、ぱっと咲いたかと思うと、すぐにしぼんで、黒いみの虫のようになって、煙を曳いて落ちてくる。貴族たちのミサイル攻撃だ。

 バーバリアンは一斉に北へと飛び立っていった。その後、何が起こったのか、僕には分からない。ただ、戦いがいつまでも終わらないところを見ると、次から次へ、バタバタと叩き落とされているのは、バーバリアンの方らしい、と当て推量をしていた。
 後で聞いた話によると、非常に珍しい現象だったそうだ。バーバリアンは何かのきっかけで、集団発生したり、集団自殺のような真似をすることがある。大発生して農作物を食いつぶしていく害虫や、砂浜に打ち上げられて大量死する海の生き物……そういうのと同じだとか。
 三分もしないうちに、あれだけいたバーバリアンは、わずか五機まで数を減らしていた。
 ようやく、僕にも戦闘機とバーバリアンの区別がつくようになった。機体の性能では、貴族が乗る戦闘機の方が格段に上をいっている。戦闘機は、加速していったんバーバリアンから距離を取り、引き返してきて、速度を利用してすれ違いざまに攻撃し、すぐに離脱するという戦法で、瞬く間に二機を撃ち落とし、残るバーバリアンは三機のみとなった。
 次に突っ込んできたのは、青い線が入っていない方だった。領主の乗機だ。だが、すれ違いざまの機銃掃射は、わずかに狙いを逸れてしまった。領主は再攻撃をかけるべきか、諦めて早く離脱すべきか、躊躇したようだった。それは結果的に離脱の遅れとなり、命取りとなった。
 バーバリアンの一機が上空に占位したことに、領主はすぐ気づいたようだった。不用意に上昇すればすぐ餌食になるところを、領主は低空を水平に急旋回して回避しようとした。だが、バーバリアンは自らの危険などまるで顧みないかのように、墜落同然の急降下をして、戦闘機に体当たりした。
 二機もろとも、火だるまになりながら絡み合い、残骸をまき散らしながら、落ちてくる。貴族もバーバリアンも、落ちる時は似たようなものだった。