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むかしむかし、とある村を治める貴族の家に、三人目の男の子が生まれました。

けれど、その男の子は、普通とはちょっと違いました。


 

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2012年4月 ファンタジー 掌編 1ページ

 

 昔々、とある村を治める貴族の家に、三人目の男の子が生まれました。
 男の子は生まれた時に、鳥の羽のような形をした血の塊を握りしめていたので、鳥にちなんだ名前を付けられました。
 男の子は元気に成長しましたが、小さい頃の男の子は手の付けられない乱暴者で、しょっちゅう喧嘩ばかりしていました。しかし、長じるにつれ、その立ち振る舞いは気高く立派なものになっていきました。が、まだ少し短気な所は残っていました。
 やがて男の子は立派な若者になりました。
 両親は若者を軍人にしようと、都の学校へと送り出しました。しかし若者は軍人になるのが嫌で、支度金を持ち逃げして放浪の旅を始めました。行く先々で日銭を稼ぐために色々な仕事をしましたが、どれも長続きはしませんでした。
 そのうち生活に行き詰まり、途方に暮れていた若者は、ある噂を耳にします。近くの山奥に、仙人が住んでいるというのです。
 若者は仙人の元を訪れ、次のように尋ねました。
「仙人様。私にはどうにも解せぬのです。なぜ人間はかくも愚かなのでしょう。私が見て来た人間は、皆、自分で自分を苦しめるような暮らしをしておりました」
 仙人は若者の問いを聞くと、家の奥から鞘に収まった一振りの剣を持ってきました。
「若者よ。この剣は魔法で鍛えられた勇者の剣だ。この剣を鞘から抜くことができたなら、そなたを邪心なき勇者と認め、答えを教えよう」
 しかし、若者は剣を抜くことはできませんでした。
 若者は勇者になるべく、仙人の元で修行を始めました。
 体を鍛え、本を読み、若者は老人が課す試練を次々と乗り越えました。
 そうして数年が経った頃、老人は若者に聞きました。
「どうだ。若者よ。問いの答えは見つかったか」
「それが……今に至るまで、皆目分からないのです」
 すると仙人は笑いました。
「それでよい。分からないことを分かったと言うことほど、愚かなことはない。さあ、この剣を抜いてみなさい」
 剣は嘘のように抜けました。若者は勇者となったのでした。
 仙人は、今度は家の奥から一本の白い羽根を持ってきました。
「勇者よ。私も、若い頃はそなたと同じ勇者だった。だがある姫君からこの羽根を授けられて、私は剣を捨てた。しかしそなたなら、別の結末もあるかもしれぬ。姫はこの先の塔のてっぺんに住んでおる。行ってみてくれないか」
 勇者は仙人から白い羽根を受け取ると、塔へと赴きました。そこは魔物の住まう塔でした。
 しかし勇者は、自分が魔物を怖がるように、魔物も自分を怖がっていることを一目で見抜きました。勇者が勇気を出して門をくぐると、魔物は自ら進んで道を開けました。
 塔のてっぺんに着いた勇者は、思わず目を疑いました。そこは一面の花畑だったからです。
 その花畑の真ん中に、綺麗な洋服を着た、可愛らしいお姫様が座っていました。
「この羽根の持ち主は、あなたですか」
 勇者は仙人から受け取った白い羽根を取り出して、そう問いました。
 お姫様は興味なさそうな目で勇者と羽根を見ました。
「ずうっとずうっと昔……どれぐらい昔なのか分からないぐらい昔に、ここに来た勇者様に、その羽根を差し上げました」
 お姫様は言いました。
「その方は、私の願いを知ると、その羽根だけを受け取ってここを立ち去りました」
「願いとは」
「ここにずっといたい、という願いです」
 お姫様は両手を広げてお花畑を示しました。
「綺麗でしょう。昼間はそよ風に頭をなでられて、夜はお星様に見守られて、私はずっとお花畑で寝て過ごすの。ここにいれば食事もしなくていい。歳もとらない。外の世界に行くのは嫌。外の世界は、煩わしいことや、醜いことばかりだわ」
「そうかもしれませんね」
「ねえ、あなたもここでずっと過ごさない?」
「それはできません」
「どうして」
「あなたも、本当は分かっているのではないですか」
「どういうことかしら」
「この白い羽根を一目見た時、私には分かりました。あなたと私は同じです。あなたも私も、間違って人間に生まれてしまった鳥なのです。人間の愚かさが醜くて仕方がない。もっと自由に生きたい。しかし、僕たちに翼はない」
「そうよ……そうよ、そうよ、その通りなのよ!」
 お姫様は怒って、足元のお花を踏みつぶしました。
「だから私は魔法で自分をここに閉じ込めた。人間なんて嫌いだから。人間と接することに耐えられないし、自分が人間であることに耐えられないから。だから自分に呪いをかけた」
「けれど、それはあなたの本当の望みではないはずだ。あなたは本当は、戦うことを望んでいる。小さい頃、気に入らないよその家の子につかみかかっていったみたいに、あなたも私も、本当は戦いたい。戦って、少しでも自由になりたい。たとえそのために傷ついたとしても。しかし、一人で戦うのは怖かった。いいや、あなたは戦ったのかもしれない。しかし、敗れた。道半ばで心折れた」
「……」
「ずっと待たせてしまったんですよね。ごめんなさい。もっと早くに、あなたと出会いたかった。今から、一生かけて償いをさせてください」
 勇者は剣を抜いて、お姫様に差し出しました。
「もし、私と一緒に生きてくれるなら、この剣で、この花畑を切ってください」
 お姫様は、おそるおそるその剣を受け取りました。
 花畑の方に向き直って、お姫様は、怯えた顔のまま、しかし思い切って、剣を振りました。
 その瞬間、空が割れて砕け散り、本物の空が現れました。花という花が乱れ飛び、お姫様と勇者を覆いました。

 

 


 

ご読了、ありがとうございました!

 

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