僕は昔から、不思議な夢をよく見る。誰にとっても、夢というのは、多かれ少なかれ不思議なものなのだろうけれど、こういう日の朝はやっぱり、僕の夢は輪をかけて不思議なんじゃないか、なんて思わずにはいられない。夢から覚めた時、胸が一杯になっていることに気がついて、年甲斐もなく涙を流してしまう、こんな日の朝は。
 彼女は実在する。もう十年近く前になるが、僕が高校生だった頃、好きだった女の子だ。当時から本当に好きだったが、まさか十年経っても夢に見るほど、彼女が僕の人生において特別な存在になるとは、正直に言って思いもしなかった。
 そんな風に、僕は今も彼女を強く想っていたが、夢と同じで、現実の彼女もまた、僕の手の届かないところへ行ってしまった。僕は、本当はあのまま二人で歩き続けて、いつか「抱き合わなくても心地よいぐらい温かくて、耳を寄せなくても話せるぐらい静かなところ」を見つけて、そこに家を建てて、彼女と一緒に暮らしたかったのだけれど、それは出来なかった。
 風の噂によると、彼女は、僕なんかよりずっと立派な社会人になったらしい。
 そんな彼女の幸福な人生において、あの時の僕は、少しでも役に立てたのだろうか……彼女の夢を見る度に、僕はそんな、答えの出ない問いを繰り返す。
 そして、彼女の美しい横顔を、瞼の裏に思い浮かべながら、僕は思う。きっと、僕からは順風満帆に見える彼女の人生も、実際にはたびたび困難に見舞われていて、僕が何度でも彼女の夢を見るように、彼女もまた何度でも、あの時のような苦しい思いを、繰り返し味わっているのだろう、と。
 本当はそんな時、僕は彼女のところに飛んでいって、あの頃のように支えになってやりたい。でも、色々な事情があって……僕が昔やらかした、大きな過ちのせいだ……それはできない。
 それでも、未練がましいという声を甘んじて受け入れつつ、僕は、いつかもう一度彼女に会いに行く、という夢を捨てていない。
 だから、そんな日がいつ来てもいいように、今の僕は、自分を磨くことにしている。
 彼女がどう思っているかは分からないが、僕自身は、あの時、彼女を助けようとした自分は、本当に正しいことをしたのだと、今も固く信じている。たとえ、彼女の心を、長くつなぎ止めておくことが出来なかったとしても。
 だから、同じことがまた僕の目の前で繰り返されたなら、僕はまた、あの時と同じ事を繰り返すだろう。同時に僕は、再び過ちを繰り返すことのないよう、全力を尽くすだろう。
 そして、それができるように、常に自分を鍛えておく。
 報われない努力かもしれなかったが、そんなこと、構いはしなかった。
 どうしてかと言えば……彼女の夢は確かに、僕に大きな悲しみを与えるのだけれど……それと同じぐらい、大きな喜びもまた、与えてくれているのだから。

 

                                                                              了

 

 


 

ご読了、ありがとうございました!

 

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