「入って」
 彼女の後について中に入り、ドアを閉める。
「座って」
 僕は言われるがまま、椅子の一つに座った。
 すると彼女は、部屋の隅のティーセットを何やらかちゃかちゃやり始めた。よく見るとアウトドア用のガスコンロもある。お茶を出してくれるらしい。
 彼女がお茶を入れてくれると分かると、僕の心も段々明るくなってきた。どうやら僕は、彼女の秘密に立ち入ることを許されたらしい、と分かった。これは特別な関係になったということだと思った。
「あんまりきょろきょろしないで」
「あ、ごめん」
 程なくして紅茶が運ばれてきた。ティーカップはちゃんとソーサーに乗っていて、僕の前に置かれる時にかちゃりと音を立てた。紅茶のいい香りが漂ってくる。
 彼女が僕の向かいに座ったのを確認して、僕はティーカップを手に取った。
「いただきます」
「誰が飲んでいいって言ったの?」
「へ?」
 普段の彼女からは決して聞かれないような台詞が発せられて、僕があぜんとしている中、彼女は一人、きちんとソーサーも一緒に持ち上げて紅茶を一口飲んだ。
「えっと、飲んじゃ駄目なの?」
「いいって言うまではね」
「……」
 僕と彼女のソーサーとティーカップが置かれ、それぞれがかちゃりと音を立てた。
 それが合図だったかのように、彼女はどうやら本題を切り出した。
「誰からこの部屋のことを聞いたの?」
「誰にも聞いてないよ。たまたま、偶然見つけたんだ」
「ふーん……ここのこと、誰にも言ってない?」
「言ってない」
「どうして?」
「僕は普段から、そういう話を人としないから」
 自慢じゃないが、僕は友達があまりいない。いても、当たり障りのない話をする程度の仲で、はっきり言っていてもいなくてもあまり変わらないようなものだと思う。それでも一応は友達がいるのは、世の中は友達がいない人間は人間じゃないと考えているよく分からない人が幅を利かせていて、そういう人たちがなぜか居丈高に出てくるからだ。そういう手合いは一回か二回殴ってやればおとなしくなることを僕は経験上知っていたが、そういうのも面倒くさいから予めそうなることを避けるよう行動する程度には、僕も大人だったってことだ。