僕はある時、クラスで人気者の女の子の、意外な秘密を知る。放課後になると彼女は、廃校舎の奥の秘密の部屋に閉じこもって、何かしているようなのだ。
それを見つけた僕に、彼女は言う。
一足す一は?
掲載時期 | ジャンル | 分類 | 分量 |
2012年7月 | 恋愛(?) | 短編 | 8ページ |
一足す一は、って彼女が聞くから、僕は二って答えたんだ。すると、彼女はなんだか怒ったみたいなんだ。その時は分けが分からなかったよ。
使われなくなった古い廃校舎の、いちばん奥の部屋。部室棟だったという場所にあるその薄暗い部屋に、彼女はいつもいて、好きなことをしていた。そこは誰の目も届かない、誰の声も届かない秘密の場所。見ているのは、窓から顔をのぞかせて、電気のない部屋を少しばかり明るくしてくれるお日様と、窓の外に伸びた木の枝にとまる小鳥だけ。
彼女はその秘密の部屋を、こぎれいに掃除して、自分だけの場所にして、一人で遊んでいた。ある時は歌い、ある時は本を読み、またある時は、長机に突っ伏して眠るように考えていた。
彼女にも友達はいた……たくさん、いた。彼女は可愛くて、社交的で、勉強ができて、優しくて明るくて、それでクラスの人気者で、みんなの憧れだった。けれど、放課後の彼女を知る人はいなかった。ある人はいい大学に行くためにみっちり勉強しているのだと言い、またある人はよその学校に彼氏がいるのだと言った。しかし実際にはどちらでもなくて、彼女はどうやってかふらりとみんなの前から消えて、いつもその廃校舎のいちばん奥の部屋で一人でいるのだった。
僕がその彼女の秘密を知ったのは、事もあろうに彼女が原因だった。
その日、僕は彼女に告白して、振られた。
ごめんなさい。
その一言が、僕の心を引き裂いた。彼女は去っていった。それだけだ。それだけのはずだった。
僕は放課後の騒がしい校内を抜けて、ただ一人になりたくて、廃校舎に足を向けた。廃校舎に入ってもまだ、かしましい女生徒の笑い声が聞こえてきたので、僕はさらに先へと進んだ。先へ先へ、何も聞こえない、何にも見られない、そんな場所を求めて僕は落ちるように進んでいった。
そうしてたどり着いた廃校舎の一番奥に、その部屋はあった。はじめ、僕はドアの隙間から光が漏れているのをみとめて、あれっ、と思った。窓は全てカーテンが閉め切っているはずだった。
僕は導かれるようにそのドアへ歩み寄り、ドアノブを回して中へ入った。