その週末、林間学校があった。さすがにこの時期に林間学校はどうかと職員会議がもたれたらしいものの、校長の鶴の一声「こういう時こそ普段どおりの生活を」で、実行が決まったという話だった。
  僕たちはバスに乗せられて運ばれていって、二列縦隊にされて、名前も知らない山を登らされた。行程が半ばにさしかかったところで、僕の後ろあたりを歩いていたKが「そうか分かったぞ!」と叫び声を上げた。「これが俺たちの戦争なんだ!」。この台詞は、主に男子から受けが良かった。六割ぐらい笑っていた。それに気をよくしたKは、その日一日中、まるで流行語大賞を取ったお笑い芸人みたいに「これが俺たちの戦争なんだ!」を繰り返していた。確かに、家にいて戦争のニュースを聞いているより、林間学校の方がよほど非日常的だった。
  夕食は、大広間に全学年が集まって食べた。わいわいがやがやと騒がしく食べている中で、携帯をいじっていた男子生徒が突然「やったぞ! 戦争が終わった!」と叫んだ。
  それまでの喧噪が嘘のように、シンと静まりかえった大広間で、みんながその男子を見ていた。男子はだいぶ怖じ気づきつつも、みんなが望んでいた言葉を続けた。「俺たちの勝ちだ!」。
  数秒間、何も起らずに、みんなは黙ったままだったが、やがて、お調子者で有名な男子が立ち上がって、拳を突き上げて「イェーイ!」と叫んで見せた。
  それは全く受けなかったので、後に引けなくなったそいつは「カッタ、カッタ」と叫びながら、先住民族みたいな勝利のダンスらしきものを踊り始めた。即興にしてはなかなか雰囲気のある振り付けで、これは受けが良く、男子も女子も大笑いに笑った。やがてみんなが、試験が終わった後みたいにほっとした様子で、夕食を箸でつつき始めた。
  それが僕たちの終戦だった。