朝起きると、僕の国は戦争に突入していた……はずだったのに、爆弾は落ちてこないし、学校で軍事訓練をやらされるわけでもなく、平凡な日常が過ぎ去っていく。しかし、僕らはある方法によって、戦争に協力していたのだった。
掲載時期 | ジャンル | 分類 | 分量 |
2012年10月 | ちょっとSF | 完結した短編 | 6ページ |
目を覚ますと、そこは戦時下だった。
冗談でも何でもない。本当のことだ。
ある朝、僕がいつもどおり目を覚ましてテレビをつけると、特番をやっていて、半島で戦争が起き、僕の住むこの国も参戦したと繰り返し伝えていた。
何か大変らしい……けれど、どうすればいいのだろう。
すぐに思いついた。戦争が始まったからには、僕にはやらなければならないことがあった。それは、学校に電話して、先生に「念のために電話したんですけど、今日は休みですよね?」と聞くことだった。
「そんなわけあるか。いつも通り学校に来い」
当直の先生は素っ気なくそう言って電話を切った。
父さんと、母さんと、五つ下の弟と、四人でテーブルを囲んで朝食を食べた。その席で、僕が一度、父さんと母さんに「父さん、会社は休みにならないの? 母さん、今日もパートに行くの?」と聞いた。
父さんは、何を聞かれているのか分からないという風な当惑した表情で
「当たり前だろう」
と答えた。母さんは、何馬鹿なこと言ってるのよ、とでも言いたげな顔で
「早く食べなさい。遅れるわよ」
と言った。
首をかしげながら、僕は「行ってきます」と言って玄関を出た。
通りに出て、僕は生まれた時から住んでいる二階建ての一軒家を見上げた。昨日と全く変わらない。無傷だ。爆撃を受けた形跡はない。当たり前だが、当たり前じゃない。
自然と、僕の視線は真上へと移った。ちょっと珍しいぐらいの快晴の空。僕は、頭上に広がる群青色を突き抜けて、黒光りする爆弾が落ちてくるのを期待した。
だが、たっぷり十秒は待ったのに、そんな気配はない。
家に爆弾が落ちることと、家の前で空を見上げて十秒以上も立ち尽くすこと。
どっちの方が、おかしいことなんだろう?