そうして三度目の機銃掃射を終えると、機銃の弾は尽きてしまいました。連射が速いもんで、すぐに弾切れになっちゃうんですよ、あれ。
  さてどうしたものかと思って、とりあえず上昇すると、レーダー警報器が音を立てました。外部から照射されたレーダー波に反応する装置です。ディスプレイを見ると、二機のF-15からのレーダー波を受けているのが分かりました。すぐに百里基地から来た連中だと分かりましたよ。あいつらは首都防空を担う精鋭だから、ぞくっときちゃったな。
  とりあえず、私はそいつらのレーダー波が来る方向に機首を向けて、レーダーのスイッチを入れました。すると、四十海里前方に反応があったんです。
  もしかしてと思った私は、無線もオンにしてみました。案の定、緊急周波数で呼びかける声が聞こえてきました。たしか、応答しなければ撃墜する、とか言ってたかな。そこで私は、正面やや斜めに突っ込んでくる二機にロックオンしました……最近のミサイルは優れものでね。すぐ近くまでミサイルが来てからでないと、相手はロックオンされたことに気づかないんですよ。
  きっとあいつらは、すれ違いざまに旋回して私の後ろを取るつもりだったんでしょうね。領空侵犯機に対する通常の措置です。私が読んだ通りの動きでした。
  距離二十海里でボタンを押しました。ミサイルのボタンをね。翼下から放たれた二発のミサイルが、あっという間に小さくなって、見えなくなりました。煙もほとんど立たなくてね。綺麗なもんでした。
  あの距離、あの体勢なら、絶対に避けられないと思ったんですがね。さすがは百里といったところでしょうか。二番機の方はあっけなく爆発するのが見えましたが、一番機は見事に避けてみせました。でも、回避機動に必死になったせいで、ひどく不利な姿勢になってましてね。私は簡単にそいつの後ろを取ることができました。それで、短距離ミサイルで仕留めようと思ったんですが、必死に逃げ回るもんで……説明しにくいですが、激しい機動をしているとですね、相手との距離が危険なほど近づいちゃうことがあるんですよ。そんな時にミサイルを撃つと、爆発に巻き込まれる恐れがあるんで、おいそれとは撃てないんですね。だからその隙をついて、あいつは私を引き離す気だったんでしょう、きっと。
  でもね。その時の私は、普通じゃなかったわけだ。
  私は構わずにミサイルを撃ちました。またすうっとミサイルが空に消えていって、しばらくして爆発で機体が真っ二つに折れるのが、はっきり見えたな。でも、次の瞬間には破片と衝撃波が飛んできて、機体が大きく揺られて、何かが表面に打ちつけて、エンジンが咳き込んで、そういういろいろが一遍に起こりました。
  辛うじて、相手の機が火の玉になって、都市部へ落ちていくのが見えました……大惨事だなあ、なんて、他人事のように考えてましたね。まあ、実際、その時には私の機もエンジンが虫の息だったんで、これからどうしようかってことを考えてたんですけど。
  その時、一つの高層ビルが目に入りました。最初は東京ならどこにでもある直方体のビルかな、と思ったんですが、それがよく見てみると、同じものが二本並んで立っているんですよ。ピンと来ました。よくテレビのニュースに映ってる、都庁だな、って。締めくくりには絶好の標的でした。
  私は、すっかりエンジンの出力が衰えた機体をどうにかなだめて機首を都庁に向けて、狙いを定めると、脱出ハンドルを思い切り、引きました。
  衝撃があって……気がつくと私は、パラシュートにぶら下がって、ひらひらと空を舞っていました。下を見ると、いま私が捨てたばかりのF-15が、狙いどおり、都庁の土手っ腹にまっすぐ突っ込んでいくのが見えましたよ。それからついに、ドカーン、ってね。
  これで終わったと思ったんですが、実はまだ終わりませんでした。
  別に早く死にたいわけでもなかったので、私は手近な空き地を探しました。すると、都庁の正面に、ちょうどいい公園があるのが見えましてね……あ、裏なんですか、すいません。へえ、新宿中央公園っていうんですか。
  で、私はその新宿中央公園に無事降り立ったわけです。
  頭上を振り仰ぐと、都庁の真ん中あたりから、もくもくと煙が舞い上がるのが見えました。何か、紙もぱらぱらと飛んでいたような気もしますね。なかなか見応えがありましたよ。
  そうしてぼうっとしていると、サラリーマン風のスーツ姿の若い男性が近寄ってきました。
  目を合わせると、彼は私に聞きました。北朝鮮の攻撃ですか、とね。私はきょとんとした後、意味が飲み込めてくると、大笑いしましたよ。ああ、この国の人は、自衛隊が反乱を起こすかもしれないとは夢にも思っていないんだ、とね。でも本当に、どうしてなんでしょうね。一般市民と自衛隊の力関係を考えれば、反乱が起きない方が不自然なのに。
  で、私は笑うついでに、携行していた拳銃を取り出して、その男性の腹に撃ち込んだんですよ。確か二発撃ち込んだと思います。ええ、拳銃弾は威力が十分ではないので二発撃ち込むようにと、訓練でも言われていましたから。