高い建物が増えてきたので、私は高度をやや上げました。それでも、下にいた人はびっくりしたでしょうね。そのぐらいの高度でしたよ。
  やがて、ネット上の衛星写真で何度か確認していた光景が見えてきました……都心のビル街です。しかし、私の視線はその中の「緑色」に集中して注がれていました。
  東京は一面のコンクリート世界だと思われがちですが、上空から見ると意外と緑があるんです。その多くは、公園や寺社仏閣です。しかし、私の標的は一つでした。皆さんもご存知の通りの、江戸城跡地……え、この表現はまずいんですか? 広すぎるから? じゃあ……仮に「パレス」としましょうか。パレスを探すのはそう難しくはありませんでした。目標座標付近の、一番大きい緑を狙えばよかったですから。
  え? パレスを標的に選んだ理由ですか? ええっと……一つは、私は、暴力を縛っている「透明な力」を確かめたいと思っていたからです。あのアメリカ軍でさえ、パレスは公式命令では狙わなかったという話でしたからね。試してみるには絶好の標的でしょう? もう一つの理由は、単純に、上空から見て識別しやすい目標だったからです。
  私は高度を上げてパレスの周囲を旋回し、攻撃ルートを見定めました。そして私は、パレスに機首を向けて降下に入りました。え? 無線ですか? 受信も切ってましたよ。とっくにね。
  安全装置がオフになっているのを確認して、私は引き金を引きました。実弾訓練でやったのと全く同じでした……機関砲弾は滑るように落ちていきましたよ。弾が着弾して土煙が上がるところなんかは、感動ものでしたね……演習以外で実弾を撃ったのが初めてだったというのももちろんありますが、やっぱりそれ以上に「透明な力」に風穴を開けてやったという、達成感の方が大きかったな……。
  私はすぐに上昇しつつ旋回し、二度目、三度目の機銃掃射を行いました。三度目の掃射の時、地上で何かが光るのが見えました。
  あっと思いましたね。はっきりとは見えませんでしたけど、人がこちらに向けて拳銃を撃っているというのが辛うじて分かりましたよ。こういうこと、本当にあるんだなあ、と思いました。この日、二度目の感動でしたね。あれですか。名前は忘れましたけど、パレスには普通の警察とは違う警察が配置されてるんですよね。近衛隊みたいなやつが。あれの人だったんでしょうね、きっと。
  でも、あの人には悪いですけど、無駄なことですよ。秒速で言うと、二百メートルぐらい出ていましたからね。当たるわけがないし、当たったとしても、拳銃弾で戦闘機が落とせるわけがない。