翌日、朝早くに田中は起こされた。
「田中くん。今日は予報どおり天気がいい。食事をとったら、下山するよ」
  山中は、どこから出してきたのか、スキー板を準備していた。
  二人はスキーで歩いて下山した。雪で覆われた木々の隙間から、晴天の青い空が覗いていた。
  休憩を挟みながら二時間ほども歩くと、下の方から、救助隊の赤いライフジャケットが見え隠れした。向こうもこちらに気づいたようで、声を上げながら近づいてくる。
「それじゃあ、俺はここで」
  山中は立ち止まり、田中に先に行くように促す。田中は、なぜか後ろ髪を引かれるような思いを感じながらも「お世話になりました」と一礼して歩き出した。
「田中くん」
  すると、山中が声をかけた。田中が振り向く。
  山中は言った。
「君が考えているとおりだよ。俺は、人間の現実から目を背けた、人生の敗者だ」
  そう言って踵を返そうとする山中に、今度は田中が声をかけた。
「山中さん!」
  立ち止まり、振り返る山中に、田中はこう言った。
「……人間に勝者なんかいない。俺たちはみな敗者だ」
  山中は、何度目かの自嘲するような笑みを浮かべると、軽く手を挙げて田中に応え、歩き出した。
  その後ろ姿は振り返ることなく歩き続け、やがて山の中の木立に紛れて、見えなくなった。

  

  

  

 


 

ご読了、ありがとうございました!

 

著者にメールする 他の小説