パチパチ、という音を聞いて、田中は昔見た映画のラストシーンを思い出した。死期が迫った主人公に対し、ヒロインが「私も一緒に死ぬわ」と言うのだが、主人公は「君は長い人生を幸せに生きろ。精一杯生きて、それから死ぬんだ」と言い残して死ぬ。やがてヒロインは老婆となり、青春時代の約束を果たす。彼女は若かりし頃の姿で天国に昇り、そこで当時周囲にいた人々の拍手に包まれて、恋人との再会を果たすのだ。
  が、田中はそんな約束をした覚えはない。大体、人から祝福されるような死に方はしていない。そうすると、この拍手は、悪意と嘲笑によるものと判断せざるを得ない。
  田中はかなり不愉快な気分で、うっすらと目を開けた。
  目の前に開けたのは、ゆらめきながら盛大に燃えさかる、真っ赤な炎だった。パチパチと言うのは燃えている木が弾ける音だった。自分は焼かれているのか、と思った。地獄の一種にそんなところがあった気がした。
  驚いて目をしっかりと見開くと、すぐにそうではないと分かった。かまどだ。昔話で出てくるみたいな、煮炊きをするための石のかまどの中で、火が燃えているのだ。
  助かった!
  そう思って、心の底から喜びが湧き出てきた。すぐさま体を起こそうと思ったが、体の方はまだ疲れが残っていて、それはゆっくりとした動きにしかならなかった。しかし、とにかく、さっきとは違って体がちゃんと動いた。それを確認できただけでも、田中は生きているという事実をかみしめることができた。
「気がついたかい?」
  後ろから、落ち着いた男性の声が投げかけられた。
  振り向くと、三十弱ぐらいの年の、作務衣のような上着を羽織ったこぎれいな男が、湯気を立ち上らせる湯飲みを片手に近づいてくるところだった。
  男は田中の前でかがむと、湯飲みを差し出した。
「甘酒だ。飲むといい。元気が出る」
「……」
  半ば呆然としながら湯飲みを受け取ると、温かさが手の平にじんわりと広がった。見ると、田中の前には囲炉裏があった。周りをぐるっと見渡すと、田中は自分が、昔ながらの伝統的な日本家屋の中にいることを知った。木造で、板張りで、土間があり、天上には木の梁が渡されていた。しかし、タイムスリップしたわけではないことはすぐに分かった。よく見ると、書き物机の上にノートパソコンがある。電気スタンドも。土間の隅には電気冷蔵庫もあった。天上には裸電球がぶら下がっていた。振り返ると、後ろにはさっき起きた時に目に入った火のついたかまどが。ひどく古めかしい家だが、その家の一番暖かいところに寝かされていたらしい。下を見ると、田中は既にスキーウェアを脱がされて、布団の中にいた。