yamanaka_in_mountain田中は、冬山で遭難していたところを謎の男に助けられる。人里離れた山奥で孤独に暮らす男は、名前を聞かれると「山の中に住んでるから、山中、でどうかな?」などと、謎めいたことを言うのだった。


  

掲載時期

ジャンル

分類

分量

2012年12月

SF

完結した短編

9ページ

  

  

  田中は死にかけていた。
  ただ、大学時代の仲間達と、スキー旅行に来ただけのはずだった。ならされた林の中を滑るコースで、うっかり転んでしまったのがいけなかった。馬鹿笑いを響かせて曲がりくねった道の向こうに消えていく仲間達に追いつこうと、田中は急いで滑走した。
  天気は朝から曇りだったが、昼過ぎには雪が降り始め、今、急に強くなってきた。その時、田中はふと、ここは決められたコースではないのではないかと気がついた。
  もう遅かった。シュプールをたどって戻ろうとしたが、途中で雪に埋もれて分からなくなってしまった。坂道を下っていけばいつか人里に着くはずだと思ったが、行けども行けども人のいる気配はなかった。密集した木立を通り抜けるのは無理だったので、迂回せざるをえなかった。それを繰り返している内に、方角も全く分からなくなってしまった。雪はみるみる強くなり、吹雪になった。スキーウェアの隙間から風が入り込んで冷たかった。視界も悪い。
  スマートフォンは、防水タイプではなかったので、濡れて壊れるといけないと思って持ってこなかった。食べ物や飲み物は何も持っていなかった。小腹が空いたときには、スキー場の麓にある休憩所で軽食をとればいいと思っていたのだ。そのために、首からぶら下げたコイン入れには小銭と二、三枚の紙幣が入っていた。今ではそれも何の役にも立たなかった。
  田中はそれでも必死に歩いた。歩かなければ助かる見込みはないと思った。
  今頃、仲間達は心配して救助を要請していてくれるだろうか。どうだろうか。みんな、俺がナンパに夢中になってるとでも思ってるかもしれない。そうでなければ、仲間内でも一番のケチの金子が、山岳救助隊を呼ぶと費用を請求されることがあるから、しばらく様子を見ようなどと言っているかもしれなかった。
  低い枝に、スキーウェアの裾が引っかかった。田中はもう冷静にそれを外している気力がなく、力任せに引っ張った。買ったばかりのウェアが破けた。普段の自分なら考えられないことをしたな、と、田中は薄れゆく意識の中で思った。それだけ疲れているということだろう。まずい、とは思うが、切迫感がない。もうろうとしている。
  深い雪に足を取られて、田中は転倒してしまった。雪が服の中に入り込んでくる。体温で溶かされた雪が、冷水となって皮膚に浸透する。
  冷たい! 寒い!
  しかし、もう田中にはそれにあらがう力は残っていなかった。
  人間って、簡単に死ぬんだな……。
  それが、田中の最後の意識だった。