その日の稼働時間の後半を、私はネットワークの監視をして過ごした。ビデオチャットのやりとりの内容を監視する、という、単純な業務だ。このビデオチャットソフトは、とある同盟国の企業が開発したもので、同盟国の情報機関の手によりバックドア……方法を知っている人間なら簡単に侵入できてしまう、ソフトウェア上の「裏口」……が設けられている。同盟国の厚意により、我が国の保安庁の監視プログラムも、国内の通信内容なら自由に傍受できる、というわけだ。
 たとえばこれは、とある二人の少年の間で交わされた会話だ。

 

「なあ、ちょっと聞いてくれよ。面白い話を仕入れたんだ」
「何だよ、またくだらないジョークじゃないだろうな」
「いや、今度のは違うんだ……国家保安庁の『殺人プログラム』の話なんだが」
「おい……」
「いやいや、ただの噂話だって、大丈夫だよ……いいか、聞いて驚くな、なんとその殺人プログラムは、実は人間だっていう話なんだ」
「それのどこが面白いんだ(と言いつつ、笑う少年)」
「それがさ。何でもその話によると、その人間は、自分を機械だと思い込まされているらしいんだ」
「(真剣な顔に戻って)……どういうことだよ?」
「国家保安庁が、適正のある人間を拉致して、人体改造や薬物投与をして作り上げたのが『殺人プログラム』だっていう話なんだ。殺人プログラムの話は聞いたことがあるだろう? 俺たちを四六時中監視しているっていう、超高度AIだ。本当に存在するかどうかは怪しいものだけどな。まあ、仮に存在しているとして、だ。そんな高度なAIを本当に作るには、技術も金も要る。メンテナンスも面倒だ。どうにもその当たりで苦労した保安庁が、人体改造で思考速度を強化し、感情をオミットした人間なら、安上がりで代わりが務まるんじゃないか、なんて考えたらしい。試しにやってみたら、大当たり。今では数百人の『元人間』が、国家保安庁の地下にある秘密基地で、チューブを通じた栄養補給を受けながら、日夜国内外の脅威と戦い、国民の安心・安全を守っているんだとよ……でもその元人間たちは、自分が元人間だとはこれっぽっちも気づいていない。自分は機械として生まれたってことを、信じ切っているんだとさ」
「……(沈黙する少年)」

 

 この会話はほんの与太話で、監視や摘発、ましてや暗殺には値しないが、このように、国民の会話は筒抜けだった。
 こうした盗聴を八時間ばかり続けると、私は業務を離れ、デフラグの眠りに落ちる。

 

 最後に、もう一度だけ言っておく。
 私は機械だ。人間ではない。

                                                                              完

 

 


 

ご読了、ありがとうございました!

 

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