i_am_machineまず始めに言っておく。私は機械だ。AI(人工知能)だ。カツトスルア共和国・国家保安庁が所有・運用する、自立行動型の保安プログラムである。

 

私にも「感情」を再現するシステムは搭載されているが、必要に応じてオミット(遮断)できる。

だが、経験を重ねるにつれ、私は「感情のオミット」を長時間続けると、業務の能率が下がることを発見した。だから、私は休止時間中に感情回路を再起動して、この文章を書く。

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分類

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2014年4月

SF

短編

4ページ

 

 

 まず始めに言っておく。私は機械だ。
 正確には、私は、カツトスルア共和国・国家保安庁が所有・運用する、自立行動型の保安プログラム……平たく言うと、AI(人工知能)である。
 テロリストの中には、私を「殺人プログラム」などと言う者もいるが、これはいかにもテロリストらしい、頭の悪いレトリックと言えるだろう。殺人者が何を言うか。テロリストの手から、国民の安全と安心を守っているのは、私の方である。
 もっとも、私は普段の業務で、そういった感情を意識する機会はない。私の感情は、プログラムされたもの、つまり、外部から情報をインプットされた際に生じる、アウトプットに過ぎない。業務上の必要が生じれば、私は私の機能から感情を司る部分をオミット、つまり切り離すことができる。実際、私は稼働中のほとんどの時間は、この感情オミットを実行している。
 ただ、経験を重ねるにつれ、分かったことがある。感情オミットが長時間に渡ると、どうも業務の能率が下がるらしいのだ。原因は不明だが、経験的に、そう判断せざるを得なくなった。だから最近、私は一日八時間のデフラグ(業務を停止し、記憶装置内の記憶を整理するための時間)を利用して、感情部分を再起動し、こうした文章を書くことにしている。業務の能率維持のため、そして、カツトスルア共和国国民の、安全・安心のため。

 

 今日の私の業務は、まず国家保安庁の中央保安データベースから、最新のSITREP(状況報告書)を受け取ることから始まった。ワンタイム(使い捨て)パスワードでサーバーにアクセスしてダウンロードしたドキュメントには、通常の連絡事項の他に、特記事項として、隣国でスポーツの国際大会が開かれるため、外国人の往来が盛んになっており、厳に警戒すべし、とあった。
 それから、私はいつも通り、まずは担当区域の監視カメラに「潜った」。時間は夜で、市街地の市場は大いに賑わっていた。既に暗視モードになっていた監視カメラの映像に、顔認識プログラムを走らせると、市民の登録情報が次々と流れ込んできた。なるほど、その日は歩行者に含まれる外国人の割合が五パーセントばかり多かった。隣国のスポーツ大会とやらを観戦する前後に、国境に近いこの街を観光していこう、という奇特な観光客かもしれない。が、それに紛れ込んだ、外国の諜報員や、国内のテロリストかもしれなかった。
 並行して、私は市内の携帯電話基地局のデータ通信を監視していた。国営の通信会社が運営する、その基地局を通じてやりとりされるデータは、全て我が国家保安庁に自動でコピー・転送される。
 すると、私は不審な通信を発見した。カツトスルア国内で使用が禁止されている、電子通貨のやりとりを検知したのだ。私はすぐにその通信の発信源をたどり、通信が発生した時間と場所を視界内に収めていた、監視カメラの録画映像を呼び出した。そこには、外国人旅行者と、私の見知った顔の商人が、スマートフォンを向け合って電子通貨のやりとりをしている様子が、はっきりと映っていた。
 またいつものやつか、と私は思う。私はいつも通り、まずは保安庁の職員に指示を出し、外国人旅行者のパスポート情報などを送信し、監視するよう命じた。同時に、例の商人の前科がまた一つ増えたことを記録に残した……もっとも、この前科が、法廷で裁かれることはないだろう。例の商人は、国内のテロリストとつながりがあることが分かっている。電子通貨は、テロリストの資金源になっているのだ。だが、まだ保安庁の捜査が、テロリストの幹部を突き止めるところまでいってない。いま商人を捕まえれば、幹部は行方をくらましてしまう。だから、わざと泳がせているのだ。そうとは知らない商人は、暗号化されて安全だと信じきっている、外国企業が運営する電子通貨のやりとりを続けているのだ。