仕事の初日。何はともあれ、俺は指定されたブログのページを開いてみた。
 まだ記事のないそのブログには、さりげなく、しかし誰でも一目で分かる形で、何もしていない人のブログであることが書かれていた。プロフィール欄は、俺が事前に会社に提出した自己紹介文に、編集を加えたテキストで埋められている。掲載されていた広告は、どんなサイトでも見かけるような、ごく普通のものだった。コメント欄などはなかった。それらはテンプレートは固定されていて、俺からは変更できないようになっていた。
 恐る恐る、俺はそのブログを更新してみる。二日目も、三日目も。特に警告などはこなかった。アクセス解析を覗いてみたら、少なくはあるが、人は来ていることが確認できた。
ただ、広告をクリックした人数は確認できないようになっていた。
 それ以来、俺は求職活動と併行して、ブログの更新を欠かさなかった。失業保険もとっくに切れていたので、貴重な収入源だったのだ。
 だが、二週間ほどたつと、ブログのネタが尽きてきた。当たり前だ。求職活動しかしていないんだから。面接があった日はそれについて書くことができたが、毎日面接があるわけでもない。
 弱り切った俺は、ふと思いついて、俺にブログ執筆を依頼している会社の社名で検索をかけてみた。公式ホームページに「何もしていないブログ」の文字を見つけ、クリックする。
 すると、ブログのリストが出てきた。全て、俺のブログと同じように、会社から報酬をもらっている失業者たちのブログだ。俺は、ここはきっとネタの宝庫だと思って、ランキングで一番人気があるというブログをクリックしてみた。
 そこは、遊び人のブログだった。なんでも、求職活動をしつつ、会社からもらった報酬に頼るぎりぎりの生活を強いられる中、それでも娯楽が欲しいということで、世界中のフリーゲームをプレイしているらしい。そのブログには、ブロガーが遊んだ世界中のフリーゲームの紹介記事が大量に載っていた。海外のフリーゲームなんて、英語はちゃんと読めているのかと思ったが、そのブログには、ブロガーが自ら作ったフリーゲームを日本語でプレイできるファイル、などというのもアップロードされているので、俺と違って学識のある失業者らしい。
 そんな能力があるのにどうして失業するのだろう、と思わなくもなかったが、俺はいくつか面白そうなフリーゲームを見つけたので、後で自分のブログのネタ用にと、そのブログをお気に入りに登録した。
 それから、俺はいくつかのブログを見て回った。俺のように、ネタに困って下らない小話を延々と垂れ流しているだけのブログも多かったが、少なからぬブログでは「お金をかけない遊び方」について紹介されていた。さすが失業者。考えることは同じらしい。
 が、その、これまで自分が知らなかった「お金をかけない遊び方」の世界に、俺はいたく感心させられた。
 おもしろ動画をまとめたブログには、定番ながら新しい発見があった。また、無料で簡単にゲームが作れるフリーウェアの使い方を紹介するブログというのがあった。それを読んだ時は、俺も昔胸に抱いたゲーム制作という夢に再び挑戦してみようかな、という気を起こした。海外のゲーム会社が、昔の自社製品を宣伝のために無料公開していることがあるというのを初めて知った。マウスだけで簡単に3Dモデルが作れるフリーウェアを紹介するブログもあった。試してみると、俺でも簡単にスライムが作れたので爆笑してしまった。早速デスクトップの背景に設定した。もう少し複雑で、本格的なモデリングソフトも、海外の有志が作ってフリーで公開していたので、俺は少なからずびっくりさせられた。そのソフトの使い方はさっぱり分からなかったが、そのソフトで作られたというCGは、素人目に見てもなかなかの出来栄えだった。著作権が切れた映画や書籍をアップロードしているブログもあった。また「お金をかけない遊び方」とはちょっと違ったが、作家志望の人間が小説を発表していたり、ポストに漏れた若手学者が、独自の研究成果を発表したりしているのも見かけた。
 それら「お金をかけない遊び方」は、全て合法だった。めまいがするほどの数があった。
 だが、俺はいいネタを見つけることができた。「お金をかけない遊び方」のまとめブログを作るのがいい。

 会社と契約してから半年が経った。相変わらず仕事は見つからなかったが、ブログの方は順調だった。アクセス数も増えている。それによって俺の報酬が変わることはなかったが、素直に嬉しい。