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失業中の俺は「何もしなくていい仕事」の求人に応募する。

しかし、やはりというか何というか、それには裏があって……


 

掲載時期 ジャンル 分類 分量
2012年2月 SF 短編 4ページ

 

 失業して求職中の俺の元に、とある折り込みチラシが届いた。
 ざらざらした紙に白黒印刷という、見るからに安っぽいチラシには、大見出しにこう書いてある。
「何もしなくていい仕事! 応募条件:失業中であること」
 とのことだった。
 記された待遇はそう良いものではなかったが、何もしなくていい仕事、というのは、それなりに魅力的だ。待遇面では納得がいかなくても、この仕事をやりながら――ではなく、やらずにいながら、別の仕事を探せるかもしれない。不景気のこのご時世、渡りに船の話だ。
 しかし、と、俺は考え込む。世の中、何もせずに金が儲かるとは思えない。どういうからくりなのだろう。
 あれかもしれない。世の中の研究機関は、研究のために実験台になってくれる一般人を常に探している。最近では、そういう被験者を集めて研究機関に紹介するビジネスがあるという。俺はその被験者になる、ということかもしれない、と思った。しかし、それにしては、報酬が多すぎる気がした。徹底的に切り詰めれば、どうにか暮らしていけるぐらいの額だ。応募条件が失業中であること、というのも気になった。役所から雇用対策の援助でも受けているのだろうか。
 まあ、何はともあれ、応募してみることだ、と俺は思った。

 

 面接に行くと、俺の前に三人の男が座った。話が始まると、両脇の男はほんの補佐役にすぎないらしく、真ん中の、似合わない七三分けの男が、リーダー格らしいことが分かった。
「あなたは本当に何もしなくていいのですよ」
 弊社について聞きたいことはありますか、と七三分けの男が言った時、俺は仕事の内容を改めて聞いた。返ってきた答えが、それだった。
「しかし……」
 と、俺は一番気になっていたことを口にする。
「この国には、労働も求職活動もしていない学生以外の成人に、懲役を科す法律がありますが」
「ああ、そのことでしたらね、心配することはないのです」
 男は旧知の親友に話しかけるように気軽に言った。
「先ほどは、本当に何もしなくていい、と言いましたが、実はそれは正しくありません。その点は申し訳ない。しかし、些細なことです。あなたにして欲しいことはただ一つ。一日に一度、日記を書いて、ブログの形でネットにアップすることです。我々はそのブログに広告を掲載し、それによる広告収入で利益を出すのです」
「しかし、ブログの質が低かったら……」
「その点もご心配なく。ブログは『何もしていない人のブログ』として掲載しますから。一応、匿名でですが、このご時世、それなりの関心を集められることは間違いないでしょう。それゆえに、引き換えとして、他の会社に就職が決まったら契約は終了となります」
「しかし……」
「いいですか、これを見てください」
 男は机の下からフリップを取り出して、そこに描かれた図を示しながら説明した。
「あなたが、何もしないで給料をもらっていることをブログに書きますよね。そうすると、失業中の人たちは興味を抱いて集まってきます。そこに我が社が求人をかければ、雪だるま式に求職者が集まってくる。我が社は彼らに対しても同じ仕事を依頼する。一人一人の広告収入は微々たるものでも、塵も積もれば山となる」
「雪だるま式にブロガーがふくれあがっても、今の待遇を維持できるのですか」
「できます。ブロガーの数が増えれば、それだけ広告一クリック辺りの値段も上がりますから」
 上手くできているように思える……が、それでも俺は悩んでいた。
 すると、七三分けの男はこう言った。
「それでも心配なら、この仕事をやりながら、ご自身で求職活動をなさればよいのですよ」
 その一言が決め手となった。俺は、採用の通知が来た時、辞退しなかった。少々心配はあるが、背に腹はかえられない。