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俺は交通事故で人を死なせた罪で冷凍睡眠刑を受ける。だが、目を覚ました俺はいつの間にか法廷にいて裁かれていた。時間が戻ったわけではない。これは合法的な二度目の裁き。「刑罰適正化」だったのだ。

 

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2012年3月 SF 掌編 2ページ

 

 

 その日、俺は交通事故で一人を死なせた罪で、冷凍睡眠五年の刑を受けた。
 事件そのものについては、俺は深く反省している。明らかにあれは、俺の不注意によるものだった。被害者には申し訳なく思う。罪を償う気もある。
 五年間、社会に取り残される。それが俺に科せられた償いだった。それを俺は、甘んじて受け入れるつもりだった。
 この時ばかりは。

 冷凍睡眠五年と大仰に言っても、実感としては、ちょっとの間眠っていただけ、というものだ。意識が途切れて、目を覚まして、はい、それで刑は終了。苦痛も一切無い。いたって簡単なものだと、説明されていた。ただ、世間から取り残されるというだけのことだ。もちろん、それはそれで重大なことだが、仕方がない。それが自分の犯した罪なのだから。

 ところが、俺は目を覚ました直後、首をかしげるような出来事に直面する。
 目を覚ますと、まず係官が今日の日付を述べた。俺が眠る前に聞かされた日付より、きっかり五年進んでいる。それから、俺は丸一日かけて冷凍睡眠から本調子に復帰するための馴らし治療を受けた。
 問題は翌日だった。俺は、お前はこれから裁判にかけられる、と、それだけを告げられて、車に乗せられた。分けが分からなかった。眠っている間に、俺が昔犯した別な罪が発覚でもしたのだろうか。飲酒運転とか? 馬鹿な。
 だが、法廷に引きずり出された俺を待っていたのは、意外な答えだった。
 俺は前と同じ罪で裁かれたのだった。
「どういうことですか」
 俺は裁判官に訴えた。
「近代の司法制度にはたしか、同じ罪で二度とは裁かれないという原則があったはずだ」
 すると裁判官は、やれやれという様子で肩をすくめた。
「おっしゃる通り。しかしこれはあくまで、刑罰の適正化なのです」
 裁判官は説明した。俺が服役している間、世論に押されて、政府は刑罰の「適正化」を進めた。その結果、以前に判決が確定している罪でも、刑罰が軽すぎると判断できる場合はもう一度裁き直せると定められたのだ。
 この再審法廷では、被害者の遺族が証言した。遺族、つまり被害者の息子は、父を失った衝撃は大きく、自分や周囲のこの五年間の生活に無視できない影響を与えた。それに対し、冷凍睡眠五年は軽すぎると訴えた。
 俺に下された新しい判決は、冷凍睡眠十年だった。前の刑と合せて、あと五年、服役しなければならない。
 俺は今ひとつ納得できないながらも、しぶしぶ刑を受け入れた。
 係官が日付を読み上げる。俺の意識は遠のいていく……。

 気がつくと俺は法廷に立っていた。意識がはっきりしてきた俺は、今までの経緯を思い出そうと必死になった。
 そう。十年の刑期を終えたはずだったのに、俺は今、再び法廷に立たされている。またしても、刑罰の「適正化」のせいだ。それはともかく、以前はあった冷凍睡眠後の馴らし治療が今回はなく、俺は頭がぼうっとする中で裁きを受けなければならなかった。
 判決は、冷凍睡眠四十年というものだった。俺は抗議しようとしたが、その声は声にならなかった。以前見た時より幾分老けた被害者遺族が、傍聴席から俺の方をじっと見ていた。