作者解説、第三回は戦争が始まってしまったこともあり、長くなってしまいました。
ここでは、戦間期(三)における、知らなくてもまあさほど問題はないけれど、といった程度の小ネタについて解説します。
歴史の闇に葬られてはいない英国王のスピーチ
皆さんは「英国王のスピーチ」という映画をご覧になったでしょうか。あの映画では、吃音症に悩む第二次大戦時の英国王が、自らの障害を乗り越える姿を印象的に描いているわけですが、ここで語るのはその英国王の先代、ダメダメな兄の話です。
英国王エドワード八世は、その退位の様があまりにも有名です。
作中で「大正天皇」として登場する彼は、史実では、王室の求めとはあまりにもかけ離れたアメリカ人女性と結婚したいがために、こともあろうに王位を捨てます。いやー、実に英王室らしいスキャンダルですね。
しかもこの相手の女性、交際当時はれっきとした人妻であって……ドイツとの戦争も視野に入れなければならなかった当時の英国には、もちろんお家騒動など起こしている暇はなく、エドワード八世に退位を迫ったのも、ある種の当然でしょう。
ただ、作中で桐鞍真が語っている通り、私には英王室を侮辱する意図はありませんし、日本の皇室についても同じです。
また、作中で皇室の来歴として書いたものは、そのまま英国のウィンザー家の来歴です。これもまた、皇室・英王室を侮辱する意図はありません。ただ単に親しみの表現として書いたのみで、それ以上の意図はないのです。
飛行学校は実在したか?
本作の大きな欠点として「フィクションと史実の区別がつきにくい」というのが挙げられると思います。……すいません、つい、あたかも他人事のように書いてしまいました。私の不徳の致すところですごめんなさい。
お詫びとは言えないでしょうが、自分で自覚している範囲については、これからもこの解説記事の中で書いておきたいと思います。
で、今回はそれの一個目。飛行学校に関する描写です。
飛行機のパイロットというと、今でも一般庶民には高嶺の花というイメージがありますが、昔もそれは大して変わりません。
ただ、当時の英国などでは飛行資格は今よりもずっと簡単に取れたらしく、修学期間が三年と長い飛行学校というのは、あまり例がないようです。これは、お恥ずかしながらこの部分を書いてからずっと後になって知ったことで……修正も利かず、そのままになっています。
また、当時の英国の徴兵の様子についてもちょっと資料収集が追いつかなかったので、入隊手続きなどはかなりおおざっぱになっています。史実と違う部分があるかもしれません……というかたぶんあります。
次回作からは気をつけますですはい……。
誰がために鐘は鳴る
また、戦間期(三)の終わりの方に、以下のような記述があります。
東南アジアのある小国で起きた内乱に、再建間もなかった中帝空軍が介入し、一九三七年のある日、小さな町に爆弾の雨を降らせたのです。
これは史実における「スペイン内戦」のことです。1936年から1939年にかけて、スペインは内戦状態にありましたが、反乱軍がファシスティックだったため、同じファシズムのよしみということか、ドイツは再建したばかりの軍隊を派遣し、介入したのでした。
引用部分に出てくる都市のモデルとなったのは、ピカソの絵画でも有名な「ゲルニカ」です(Wikipediaの該当記事)。ゲルニカ爆撃は世界最初の、都市に対する無差別爆撃であったとされます。第一次世界大戦でも都市への爆撃は行われましたが、ゲルニカに対する爆撃は、規模などの点でそれ以前の爆撃を遥かに超越するものでした。
それでさえ、後にドイツや日本に加えられた米英の戦略爆撃に比べれば小規模と言えるものだったのですから、何とも恐ろしい戦争だったものです。