how_to_avoid_failureこの小説講座もいよいよ第八回。


 

何がいよいよかというと、今回はようやく実際の執筆作業について語ろうと思うのだ。

 

ここでは、実際に執筆作業に入った時に最も怖い事態「破綻」について示し、その予防法と対処法を論じていきたい。

 

 

「破綻」とは何か?

「破綻」……それは、全ての小説の書き手が恐れて止まない事態である。

 

まずは本稿が扱う執筆作業全体の流れについて、俯瞰して把握することにより、破綻とは何かのイメージを持ってもらおう。

 

キャラクター、世界観などを設定し、プロットも書き終えたら、いよいよ実際の執筆作業に入る。

 

執筆作業で行うことは、キャラクターや世界観に関する設定資料を基礎として、プロット通りの展開を小説という完成形(他人に読ませる形)で書き表すことである。必要に応じて、プロットにはないシーンを追加したり、プロットとは違う話を展開したりすることもあるが、そういった事態も多少は想定の範囲内だ。

 

基本的に、一度執筆に入ってしまえば、やることは単純である。細かい表現に悩む場面こそ多いが、準備さえそれなりにできていれば、そうしょっちゅう執筆が行き詰まったりはしない。

 

しかし、執筆作業中、困難な状況にぶち当たって、執筆が中断することもないわけではない。よほどの実力者でない限り、文庫本一冊分の小説なら、一回から三回ぐらいはそうした状況に直面するはずだ。

 

こうした「困難な状況」の中には、打開しない限り小説を先へと書き進められないような、小説に致命傷を与えかねないものも含まれている。

 

この種の「困難な状況」を打開できなかった場合、その小説は「破綻」する。無理矢理に先を書き進めることはできるだろうが、完成させても決して満足のゆく形にはならないだろう。「破綻」とはそうしたものである。

 

本稿の主題はこの「破綻」を招きかねないような、執筆作業中に直面し、執筆を中断させうる「困難な状況」である。この「困難な状況」にはいくつかのパターンがある。本稿ではまず、このパターンをいくつか示す。

 

また、当然のことながら、執筆前から「破綻」に対してはできるなら予防策をとっておきたい。が、予防策に頼るだけではいけない(予防策をとっても100%予防できるとは限らない)ため、「破綻」の危機を乗り越えて執筆を前に進めるための対処法も知っておく必要がある。

 

というわけで、本稿の目的は「破綻の危機」のパターン別に、それぞれの予防法と対処法を論じることである。

 

その1:ストーリーの破綻

ストーリーの破綻とは読んで字のごとく、プロット段階では気づけなかったストーリー上の破綻に気がつき、執筆を継続することが困難になることを言う。

 

たとえばAという状況があって、その解決策がXだという前提で、ストーリーが進行するようなプロットがあったとしよう。

 

しかし、実際の執筆でプロットにはない細かいことを色々と書いていると、ある時「Aに対する最善の解決策はXではなくYだ」と気づくことがある。

 

つまり、読者からすれば「この人たちはXをやろうとしているけど、Yした方がいいんじゃないかな」と首をかしげる事態になる。これは非常にまずい。完全に興ざめだ。

 

ここで挙げたのはほんの一例で、ストーリーの破綻には色々な形があり、その原因も様々なのだが、中でも代表的な原因を二つほど挙げ、それぞれの予防策と対処法を考えてみよう。

 

原因その1:プロットが大雑把すぎた

 

前回、プロットに関する記事に「プロットは細かすぎても大雑把すぎてもいけない」と書いたが、プロットが大雑把すぎるとストーリーの破綻に結びつきやすい。

 

たとえば「プロットの段階で決まってなかったことを執筆の段階で決めなければならなくなったが、どう転がしてもストーリーが破綻してしまう」という事態に陥ったら、明らかにプロットが大雑把すぎるのが原因だ。

 

予防策としては、次からはプロットを細かく書くことを心がけよう。

 

陥ってしまった場合の対処法については、プロットを書き直した方がいいと思う。

 

既に執筆した原稿を書き直してもいいが、それだとどうしても視野が狭くなりがちで、あっちを修正したら連動してこっちを修正してと大変な作業になってしまいかねない。

 

それよりは、プロットという形で全体を俯瞰しながら作業した方が良さそうだ。プロットを書き直し、次にそれに基づいて原稿を書き直すという手順である。

 

 

原因その2:ストーリーが複雑すぎた

 

よほど自信がある場合は別かもしれないが、そうでない限りストーリーはシンプルにするのが基本だ。

 

細かいプロットを書けば複雑なストーリーも書きこなせると思うかもしれないが、どれほど細かくプロットを書いたとしても「プロットの段階では出てこなかったが、話の成り行き上、執筆の段階で追加しなければならなくなったこと」というのは必ずといっていいほど出てくる。

 

この「執筆の段階で追加しなければならなくなったこと」は、プロットから見れば「異物」だ。もしもストーリーがシンプルで、プロットに余裕があれば、そうした「異物」を受け入れる余地もあるだろうが、細かいプロットにはそうした余裕がないことが多い。

 

なぜかというと、複雑なストーリー=細かいプロットでは、一カ所でも異物を受け入れたら、どこかしら修正しなければならない場所が出てくることが多いからだ。

 

じゃあ修正すればそれで済むかというと、これがなかなか難しい。修正した箇所はプロットにとって新たな「異物」となる。新たな異物は新たな修正を生み、それがまた新たな異物となってまた新たな修正を……と、連鎖反応が起こる。これが「複雑すぎるストーリーが原因で破綻する」という現象だ。

 

以上の理由から、細かいプロットを書けば複雑なストーリーを書きこなせる、と安易に思うのは間違いだ、と言える。複雑なストーリーに細かいプロットが必要なのは事実としても、細かいプロットがあれば複雑なストーリーでも安心かというと、必ずしもそうではない。

 

この現象の予防策は、第一に、ストーリーをシンプルにするよう心がけること。それでも複雑なストーリーを書きたい場合は、相応の覚悟を決めてやってくださいとしかいいようがない(ただしやめろとまでは言わない)が、その際にもプロットを書く段階で「異物を受け入れる余裕」がどこまであるかに細心の注意を払うことが望ましいだろう。

 

遭遇した場合の対処法についてだが「プロットが大雑把すぎた」場合と違い、書き直しによって対応することは難しい場合が多い。複雑なストーリーが書きたかったはずなのにそれを書き直してシンプルにしてしまったら、全く別の作品を一から執筆するのと大して変わらないからだ(まあ別にそれはそれでいいが)。

 

こうした場合の対処法は「とにかく上手い解決策を考える」ことになる。何のアドバイスにもなっていない気がしないでもないが「執筆の段階で追加しても、プロットの他の部分に修正の必要がない、上手な案」を、とにかく考える。

 

これは、ちょうど針の穴に糸を通すような作業で、非常に難しい。ただ、すぐには思いつかなくても、何日か時間をかけて考えれば思いついたりすることもある。焦らないでじっくり考えてみるのも手だ。