「あの震災」から十年……それまで報道管制によって慎重に大衆から遠ざけられていた、死者の死体写真を集めた写真集が、厳粛に出版された。

 

その写真集が伝える被災地の惨状は、目を覆わんばかりの物で、多くの人は本屋で目にすると、近づくのも嫌がった。少数の者たちが……あるものは少々気負い気味の使命感から、あるものは学問上の理由から、またあるものは単なる興味本位から……手に取るだけだった。

 

そんな中、被災して家族を失った経験を持つAとBの二人組が、たまたま本屋を訪れた。

すると、二人はある若者を目にした。若者は死体写真集を手に取り、食い入るように立ち読みしていた。二人組がそっと若者の顔を覗き込んでみると、なんと若者は満面の笑みを浮かべていた。どうやらその手の写真を見ることに愉悦を感じるタイプの人間であるらしい。

 

二人組のうちのBは烈火の如く怒り出し、公衆の面前で説教を始めた。若者は呆然と立ち尽くすだけだった。

ひとしきり説教が終わると、静かにしていたAが、肩で息をする友人をそっと促して、店外へと連れ出した。

 

A「あれだけ怒ったら疲れたでしょう。どこかで休んで行きましょう」

B「ありがとうございます……すいません。取り乱して」

A「いいえ」

B「でも、あいつ、許せないな」

A「まあまあ、いいじゃありませんか」

B「どうしてですか? 趣味・趣向は万人の自由だと? それはそうですが……」

A「それもありますが……」

 

Aはこう言った。

A「誰にでも順番は回ってくるものです。あの若者が何かすごい不幸を経験することが、この先きっとあるでしょう。その時、思い知るはずです。それに、不幸を経験してもなお、同じ趣向を持ち続けるというなら、それはそれで、信念があっていいじゃありませんか」

 

~完~