22世紀の日本では、ありとあらゆる仕事がロボットに任せられるようになっていた。
観光業などは、最も早くロボット化された産業のうちの一つだった。海外から来た旅行客は、日本の素晴らしいロボットによるおもてなしにとても驚き、そして大喜びで、たくさんのお金を落として行った。
ある時、日本の空港に降り立った、とある中国人の大金持ちも、そんな旅行客の一人だった。
彼が手荷物を受け取ってゲートを出ると、予約していたロボットのガイドが近づいて来て、挨拶をした。そのロボットは旅行者の手荷物を軽々と持ち上げると、旅行者の前に立って歩き始めた。
旅行者「いやあ、日本は大したものだなあ。少し値が張るとはいえ、旅行者一人につき一人のガイドをつけられるとは」
ガイド「お褒めいただき、ありがとうございます。超大国である中国から来られたお客様にそう言ってもらえると、日本製のロボットとして、私も光栄です」
旅行者「このとおり、言葉も流ちょうで、礼儀正しい。いやあ、けっこうけっこう」
旅行はその後も順調だった。移動用の自動車は文字通り「自動」で、ロボットがハンドルを握る必要もなかった。街はロボットによって丁寧に掃除されて、道路には塵はおろか、染み一つなかった。旅行者はロボットが作る日本料理に舌鼓を打ち、ロボットが演ずる伝統芸能に感心し、ロボットが作った電化製品をお土産として買い込んだ。ロボットが提供する性的サービスを受けたりまでした。
旅行者「いやあ、あのサービスは良かったな……顔のつくりといい、肌の質感といい、とてもロボットとは思えなかった。本当は人間なんじゃないのかね?」
笑顔を浮かべながら聞く旅行者に、ガイドは正直に答えた。
ガイド「いいえ、あれはロボットです」
これは本当だった。日本が最高の技術を集めて人間そっくりに作り上げた、接待ロボットなのだ。
旅行者「しかし、あれだけのロボットを作った技術者たちは、たいそう儲けているんだろうなあ」
ガイド「はい。ロボット事業に携わる技術者も、起業家も、おかげさまでとても高い報酬を受け取っています」
そのような人間は、数の上では極少数だったが、ガイドは告げなかった。聞かれなかったからだ。
そんなある日、旅行者が自分の足で街を歩きたいと言い出して、彼は少し道に迷って、おかしな区画に入ってしまった。
そこは薄暗くて日の当たらない街で、通りにはゴミが溢れ、腐臭が漂い、ボロボロの服を着たロボットたちが、壁に背をもたれてうずくまっていた。
旅行者が唖然としていると、みすぼらしいロボットたちのうちの何体かが、こちらをにらんできた。
それを見たガイドは、すぐさま旅行者をその街から連れ出した。
汚い街を離れて、どうにか人心地つくと、旅行者はロボットに聞いてきた。
旅行者「さっきは驚いたなあ。なんなんだね、あれは」
ガイドは答えた。
ガイド「あそこにいたのは、性能が悪いのに、コストばかりかかるロボットなのです。中には、故障しているロボットもいます。ですから、ロボットたちはあの街に廃棄されて、ああしてバッテリー切れになるのを待っているのです」
旅行者「なんだ、そういうことか」
旅行者は金持ちのくせにバカだったのか、それで納得して、そのまま旅行を続け、やがて大満足して中国へと帰っていった。
ガイドは最後まで、あの街がスラム街で、あそこにいたのはロボットではなく、人間、いわゆる日本人であることを、旅行者には告げなかった。
なぜなら、性能が悪いのにコストばかりかかるような、出来の悪いロボットは、ロボット大国・日本の恥だからだ。
めでたしめでたし