*注:徴集兵とは、主に徴兵制によって徴募された兵のこと。自ら志願して軍に入隊し、何年も訓練を積んできた志願兵と違い、徴募兵は戦うことに及び腰で臆病で、その上まともに兵器も扱えないとして、使い物にならないとされるが……

 

ある日、戦争が起きたが、その国では徴兵制が施行されなかった。

現代では徴募兵を数ヶ月訓練したところで、足手まといになるばかりで役に立たないとされているのだ。

しかしバカウヨクの中にはこれに憤る者がいた。「自分もお国のためにご奉公したい!」などと。

 

ある日、募兵所に行ってそのように訴える者がいた。いわく、

 

「私だって、引き金ぐらい引けますよ」

すると、募兵官はこう言った。

「兵隊の仕事は引き金を引くことではありません。銃弾は当たらなければ意味がないのです」

「し、しかし、滅茶苦茶に撃って、敵を脅かすぐらいはできるでしょう」

 

募兵官は滅茶苦茶なのはお前の脳ミソだと思いつつ、こう応じました。

 

「なるほど。では、ライフルを一丁と銃弾を三百発お買い上げください。しめて四十万円になります」

「え……」

「引き金ぐらい引けるんですよね? 銃がなければ引き金は引けないんじゃないですか? 滅茶苦茶に撃って敵を脅かすんですよね? 銃弾がなければ滅茶苦茶に撃てないんじゃないですか?」

「ぐ、軍用の高性能なライフルじゃなくて、町で売ってる、狩猟用の安いやつを」

「戦場でどっち側のものでもない武器を持ってうろうろしてたら、敵と味方の両方から撃たれますよ?」

「……買います」

 

「はい。で、次はこちらの迷彩服をお買い上げください」

「え? 迷彩服もですか?」

「そうです。国際条約で、戦闘員は戦闘服を着用するよう義務づけられています」

「そ、そんなの守らなくても平気ですよね……?」

「戦闘服を着ていない戦闘員は、原則として国際法上の保護を受けられないことになっています。あなたが、重傷を負って逃げ遅れて敵に捕まったとしましょう。戦場ではよくあることですがね。この場合、あなたが戦闘服を着ていたなら、必要な治療を受けて命をとりとめられる可能性があります。しかし、あなたが戦闘服を着ていなかったら、その場で処刑されても文句は言えません」

「そ、そんな酷い……」

「もちろん、一般によく知られている通り、軍隊によっては条約など無視することもありますし、逆に戦闘服を着ていなくても治療してくれる良心的な軍隊もあります。まあ、これから殺しに行こうという敵に善意を期待するなど、狂気の沙汰だろうと、私は思いますがね」

「う、売ってください……その戦闘服」

「二十万円です」

「そんなに!?」

「破れにくく動きやすい生地を使っている上、暑すぎず寒すぎないようにできてるんですよ? 濡れてもすぐ乾くし。前線で砲爆撃を受けるようになると、塹壕に何日も引きこもることもありますからね。水虫になって走れなくなり、いざという時に逃げ遅れて戦死したりとかね……水虫で済めばまだいいですが、冬になると凍傷で足を失う兵士も……」

「……買います」

「万全の水虫対策が施されたブーツもね。あと、雨天用のポンチョも」

「……買います」

「まあ、本当なら手榴弾なんかもお渡ししたいところですが。そっちは戦場で死体を漁って手に入れて下さい」

「ちょっと待って。いま何て言いました?」

 

募兵官は無視して次の話に行きました。

「戦場までの移動手段は?」

「ええっと、電車とバス……」

「冗談がお上手ですね」

「軍の方からトラックとか貸してもらえませんか」

「ご自分の車は?」

「め、免許持ってないです」

「じゃ、歩いて移動してください」

「ちょ、ちょっと待って! バイク! バイクの免許なら!」

「ほう。ちょうど良かった。明日、修理工場に送ろうと思っていたバイクがあるんですよ。買いますか?」

「み、民間の安いやつを……」

「戦場でどっち側のものでもないバイクに乗っていたら……」

「分かりましたよ! 買えばいいんでしょ! 買えば!」

 

 結局その男は、その後も軍用糧食やら通信機やらを売りつけられて、最後には肩を落として帰っていきました。

 

「やれやれ、なぜ気づかないのかな」と、募兵官はひとりごちます。「普通に仕事をして、銃とか服とか車とかを作っていてくれていた方が、よっぽどお国の役に立つのに」

 

~完~