tobedakota_pamphletミニシアター映画の定義は近頃定かではなくなってきているらしいですが、まあいずれにせよ私は現代っ子のシネコン常連であり、上映館数の少ない映画はあまり見に行きません。

 

しかし、この「飛べ! ダコタ」については「終戦直後」「日英の交流」「飛行機」と、私が過去に書いた長編小説と共通する点が多く……つまり心に刺さるキーワードが多くて、いても立ってもいられず見に行きました。

 

キーワードに触発されて見ただけだったので、内容にはそれほど期待していなかったのですが、意外にも想像以上の名作に出会えましたので、ブログでご紹介しようと思います。

 

 

脚本…王道ながらもスパイスが効いてて好印象

「飛べ! ダコタ」のあらすじは、

 

――終戦からわずか5ヶ月後の1946年1月、新潟県の沖合いに浮かぶ佐渡島に、イギリス軍の要人輸送機「ダコタ」がエンジントラブルのために不時着。乗組員の英軍人が島に滞在することになり、島民との交流が始まる……

 

というものです。

 

公式サイトに「戦争という忘れ難い痛みと憎しみを乗り越え、再生と平和への一歩を踏み出そうとする」とあることからも分かるように「終戦直後」をテーマにした映画作品としては典型的で枠にはまった作品ですが、それが悪い方に働いているというよりは、むしろ安心して見ていられるという意味で良い方に働いています。テーマこそ違いますが、その安定感はサザエさんや水戸黄門みたいな感じでしょうか。

 

見慣れない英国軍人を不安そうに遠巻きに見守っているだけだった村民は、イギリス人が冬の寒さを焚き火でしのいでいるのを見て村の旅館に滞在させるようになり、文化の違いに戸惑いつつも、最終的には石を並べた簡素な滑走路を作って、ダコタを再び空に舞い上がらせるという、ちょっとした事業をやってのけます。

 

seaside_of_sado合間に、戦争で傷ついた日英双方の痛みや、それがもたらした憎しみ、不信感を挟みながらも、それを乗り越えていこうとするのは、まさに「王道」の展開ですね。

(画像は佐渡島。作中の季節は冬ということで、荒天が多く、画面の光量も少ないですが><)

 

しかし、それで終わらないところがこの映画の良いところ。

 

戦後続いてきた激しい反戦平和主義は、近年になって盲目的で現実にそぐわないという批判を受けて見直しを迫られています。

そこで、今度は理性的に、かつ市民の生活に密着した形で平和主義を訴えるという、近年の新しい流れが、どうやらこの映画にも取り入れられているのがうかがえます。

 

少し内容を明かしてしまうことになりますが、たとえば

 

「イギリスの兵隊さんはいい人たちじゃないか。なーにが鬼畜米英だ。軍部のやつらめ、騙しやがって」

 

と言う島のおばさんたちに向かって、村長が言います。

 

「いつまでも『騙された』と思っているようじゃ、次の戦争は止められん」

 

確かに、当時の人がこんなことを言うとは思えません。実際、おばさんたちも

 

「村長さんの言うことは、難しくて分からんわ……」

 

と言って立ち去ってしまいます。しかし、現代的な価値観が合間に挿入されているようで、なかなか興味深いです。

 

 

また、重要な登場人物として、佐渡島から海軍兵学校に進学して将来を嘱望されていながら、足の障害を負って失意の帰郷をした青年が出てくるのですが、敗戦で自暴自棄になる彼に、幼なじみの女性が語りかける場面があります。

 

「私、あなたが足を怪我して島に帰ってきて……喜んだよ。だって、これでもうあなたは戦争に行かなくて済むって思ったもの。(中略)大切な人が足を怪我して喜ぶような、そんな時代には、もう戻らないから!」

 

いやはや、泣かせるではありませんか。

 

 

全体としてはお約束を押さえた典型的な流れで安心感があるものの、ところどころに入っているこうした台詞が、ピリッとしたスパイスのように効いていて、王道ゆえに緩みがち・だらけがちになってしまうのを防いで、映画の雰囲気を引き締めています。それが、私がこの映画に好印象を持った、最大の理由です。

 

ちなみに、主題歌の「ホームシック・ララバイ」も良い曲ですよ。訳すと「郷愁の子守歌」となるのでしょうか。

映画が終わるとすぐ流れてくるわけですが、歌い出しが「親の心、子知らずと……」というのは、何かのブラックユーモアかと、変な勘ぐりを入れたくなってしまいましたがw

 

 

映像…飛行シーンのCGは残念だったが、その他は良し

私が普段から重視するのは脚本であって、映像のことは専門外なのですが、ぱっと見の印象としては、こちらもなかなかのものです。

 

ただ、冒頭のダコタ輸送機の飛行シーンはCGなのですが、これはまあ、お察し下さいというレベルで、お世辞にも良いとは言えず。しかも本来なら冒頭の見せ場であるはずの不時着の瞬間は、描く技術がなかったのかフレーム(画面)の外という有り様で「大丈夫かなこれ……?」と不安になりました。

 

dakota一方、不時着後のセットのダコタは妙に良く出来てるなあと思ったのですが、鑑賞後に買ったパンフレットによるとなんとタイに現存していた実物だそうで。ありがとう、タイの見知らぬ人よ!(画像は英空軍の同型機)

 

また、どうも佐渡島の地域振興の一環としてこの映画は製作されたらしく、撮影は現地・佐渡島で全編オールロケだったそうです。その甲斐あって、雰囲気のある良い画が撮れています。冒頭、日本海の荒波が「ザッパーン!」と来るところなんかは「あ~日本映画だな~」という感じがして良いですね。

 

また、終盤、先ほども出てきた海軍さんが夜の闇の中を行くシーンなどは、鬼気迫る感じがして良いですね。何か昔の名作日本映画を彷彿とさせるような気もします。闇夜を背景に小屋が燃えるシーンも印象的で、炎の表現がよく撮れています。あれどうやったんだろう? 本物の炎をCGで加工したんでしょうか?

 

 

すごすぎる「佐渡んもん」

しかし金かけてるのか、かけてないのかよく分からない映画だなあ、予算いくらだろう、と思ってパンフレットをめくってみると「2億円」と書いてありました……え!? たったの2億!?

 

いや、なんか「2億円という(多額の)予算」みたいな書き方をパンフレットや公式サイトではされていますが、実際に映画を見た私にはとても2億円で撮った映画とは思えません。もちろん、それ以上の出来という意味でです。

 

どうやってこれだけの映画を2億で、と思ってさらにパンフレットを見てみると、なんとダコタを実際に飛ばした当時の佐渡島民よろしく、この映画は現在の佐渡島民の全面協力の元で撮影されたのだそうです。

 

佐渡では観光が大きな産業で、この映画も地域振興の一環として作られたこともあってか、地元ボランティアの全面的な協力があったようです。パンフレットによると、地元ボランティアの皆さんはエキストラ出演はもちろん、約70年前に実際に使用されていた着物や小物類を小道具として提供したり、わら草履を手作りしたり、ちょっとこれは普通以上の協力ぶりです。

 

また、撮影に協力したのは地元ボランティアだけではないそうです。法的な問題で島内の石が使えないとわかり、滑走路に使用する石を紙粘土で作らなければならなくなったのですが、それらの多くは、呼びかけに応えた全国の有志によって届けられたのだとか。

 

こうした協力があってこそ、予算以上の映画が出来たということなんでしょうか……だとしたら、すごすぎますよ、佐渡パワーは。映画の中でも「天皇陛下も罪人も……佐渡にはあらゆる人を受け入れてきた歴史がある。困った人を助けるのが『佐渡んもん』だ」というような台詞が出てくるのですが、どうやら、この精神は現代に至るまで続いているのかもしれません。

 

 

まとめ:行け

というわけで、感想は一言。「行け」。見に行け。

 

というのも、どうやら「佐渡んもん」パワーでも配給網の乏しさはいかんともしがたいらしく、本作は良い出来なのに、上映館数は少なく、上映期間も短いからです。

 

この記事の公開は2013/10/24に予定していますが、都内だとこの映画はほとんど今月(10月)中に終わってしまいます。来月(11月)の公開を予定している映画館もありますが、ごく少数です。その他の地域では上映期間はまちまちですが、いずれもごく短期間の上映でしょう。

 

というわけで、映画館で見るなら今しかありません。今すぐGo! GoGoGo!

 

公式サイトURL

http://www.tobedakota.com/

 

映画「飛べ! ダコタ」予告編